【人物図鑑】吉塚市場リトルアジアマーケットを仕掛けた住職が明かす商店街再生の縁起

【画像】西林寺 第16代住職 安武義修

西林寺
第16代住職
安武義修

【やすたけ・よしのぶ】

福岡市博多区出身、1976年4月9日生、福岡県立香椎高校卒~龍谷大学卒。在学中に得度した後、1999年に浄土真宗本願寺派の勤式指導所にて声明と雅楽を学ぶ。2000年に実家である西林寺に戻って副住職に就く。2001年からバックパッカーとしてこれまでに23カ国を訪れて、2003年よりカンボジア支援を開始。2019年11月、西林寺第16世住職に就任。2022年10月から筑紫女学園大学の非常勤講師となる。趣味、剣道(五段)、旅、写真。好きな仏教の言葉は「自他一如」。

【3Points of Key Person】

創建360年余りの浄土真宗本願寺派の西林寺の第16代住職
◎ 商店街を再生させた吉塚市場リトルアジアマーケットの仕掛け人の一人
◎ 長年カンボジアを支援して、幅広い国際交流を重ねている

衰退した商店街がアジアをテーマにした市場で蘇る

【画像】西林寺 第16代住職 安武義修

日本全国に1万2681カ所━━━。
商店が軒を連ねる通りや商店が集まる地区を一般的に商店街と呼ぶものの、明確な定義はない。小売店や飲食店、サービス業などの事業所が30店舗以上ある所を一つの商店街とみなす経済産業省『平成26年商業統計調査結果』によると、2014年7月時点で1万2681カ所を数える。

戦後のマイカー普及や郊外型ショッピングセンターの台頭、バブル崩壊後の低成長や少子高齢化、ネット通販の拡大で空き店舗が増えて、商店街は全国的に衰退傾向にある。
このような状況下、衰退の一途だった吉塚商店街は〝共生と共修〟のまちづくりを掲げて『吉塚市場リトルアジアマーケット』に生まれ変わり、注目を集める。
「吉塚では外国人居住者が年々増加しており、彼ら外国人の居場所づくり、そして地域や商店街の人々との“共生”が、商店街再生につながるのではないかと考えたのがきっかけでした」と、吉塚商店街を再生させたキーマンの一人である西林寺の安武義修住職は、目尻を下げる。 

戦後の闇市から発展した吉塚商店街は最盛期、150店舗が軒を連ねて賑わいをみせていたものの、近年は30店舗まで減少していた。
このような状況下、カンボジアでの支援活動を20年展開し、地域へ開かれたお寺づくりに取り組む安武住職は、これまでの経験を地域へ還元できないかと考え、2019年8月、お寺で開催した子ども会で、子ども達とともに「地域課題に目を向けよう」と、空き店舗のシャッターに絵を描くことを始めた。
この活動に賛同し手伝ったのが、地元の日本語学校に通う外国人留学生らだった。彼らとともに描いた二枚のシャッター作品は商店街の人々に喜ばれ、地元テレビ局も取材で飛んできた。

「シャッターペイントを通して、在住外国人と商店街の人々との交流が深まっていくことを目の当たりにした時、同じ地域に住む者同士の相互理解の必要性と大切さを感じました。それと同時に、在住外国人の皆さんが故郷に帰ったような、安心できる“居場所づくり”が、この吉塚商店街なら実現できるのではないかと思ったのです。商店街の空き店舗にアジアに特化したお店を誘致し、彼らの食と心を支える〝共生と共修のまちづくり“による商店街再生の青写真を、吉塚商店街組合長の河津善博さんをはじめ、数人の有志とともに考えました」
安武住職らの構想は2020年9月、経済産業省の『商店街活性化・観光消費創出事業』に選ばれた。そして、空き店舗にアジア系の料理店など15店舗を誘致し、多目的スペースなどを開設して同年12月1日に吉塚市場リトルアジアマーケットとしてリニューアルオープンすると、30年振りともいわれる賑わいが生まれた。
その後2021年3月にミャンマーからの黄金に輝く釈迦像が登場し、同年10月にはネパール料理店の一角にヒンドゥー教徒の礼拝場もできた。さらには共生の象徴のモニュメントとして、インドからピンクのガーネーシャ像が到着した。
アジアの人々の大切にしている〝心〟も尊重し合い、彼ら、彼女らの心の拠りどころとなる場づくりにも力を入れている。

海外をバックパッカーで巡りカンボジアに行き着く

【画像】西林寺 第16代住職 安武義修

花まつりお寺マルシェ、落語会、こどもキャンドルナイト(絵本の読み聞かせやワークショップなど)、キャンドルナイトLIVE(カンボジア関連チャリティーイベント)、餅つき会……。
吉塚市場リトルアジアマーケットに程近い西林寺は、江戸初期の明暦3年(1657)に建立された浄土真宗本願寺派の寺院であり、年間を通じて多彩なイベントを開催する。
〝地域に開かれた寺〟を目指して果敢な挑戦を続ける安武住職は、自身の転機として一人旅の経験とカンボジア訪問を挙げる。

「なぜ、自分の生まれた頃にカンボジアで150万~200万人もの人たちが殺されたのか」。自分の人生に疑問を感じた安武住職は卒業後の1年間、聴講生として大学に残り、その授業の教材として見たカンボジアでの大虐殺を取り上げた映画に衝撃を受けた。
聴講生時代に手にした本に書かれていた「男なら一度は旅に出るべきだ」という一文に背中を押されて単身、アメリカへ旅立った。これを皮切りにヨーロッパ各国を訪ね歩き、風景・風土や歴史・文化、国民性の違いを肌で感じた。海外を訪ね歩く中、2003年にはカンボジアの地に足を踏み入れた。
以来20年、自院のさい銭の寄付先として、インターナショナル・カンボジアNGOスクール、旧ゴミ山地区の小学校「愛センター」へ、それぞれ教育支援として。また、サムボー村井戸建設プロジェクトを立ち上げ、毎年現地へ浄財を届けている。

僧侶仲間と毎年、カンボジアを訪れて支援活動に取り組み、カンボジア人僧侶らとの交流も広がった。現地でカンボジア仏教界のトップであるボンキリ僧王と面会する機会も得た。
カンボジアで国王よりも上位とされる僧王が語った「仏教は、国によってスタイル、袈裟・衣の色、教義の解釈の違いがあるのは当然であり、大事なのは〝心〟です。これからもお互いの良いところを一緒に学び合っていきましょう」との言葉が今も心の中で響いている。

吉塚市場リトルアジアマーケット2.0へ

【画像】西林寺 第16代住職 安武義修

「人間関係や利害関係が全くない僧侶という立場から俯瞰して物事を捉え、”傾聴と対話”を大事にしながら関わらせてもらいました。商店街の皆さんからは≪困ったときの住職さん≫と言われ、〝緩衝材〟的な役割を担っているのかもしれません」との見方を示す安武住職は、リニューアルオープンから約2年経った吉塚市場リトルアジアマーケットについて、いま新たな舞台を迎えているとみる。

そして、従来の当事者や関係者らによる組織に加えて、外部から応援する人たちや新たに生まれたファン、さらに近隣在住の外国人や留学生らを巻き込んだ新たな組織づくりを〝自他一如〟の心で志向する。
「私にできるコトを、無理をしない程度に、自分ができる範囲で、継続して行っていきたい」と、どこまでも自然体である。

DATA
名 称:浄土真宗本願寺派 松光山 西林寺
住 所:福岡市博多区吉塚1−25−2
創 業:1657年(明暦3年)
代表者:第十六代住職 安武義修
事 業:浄土真宗本願寺派寺院
URLhttps://sairinji.org/

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