【人物図鑑】元小学校教員が取り組む〝みんなが先生になり、みんなで共育する〟社会づくり

【画像】ふくおか人物図鑑

共育パレット株式会社
代表取締役
松下ゆか理

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【まつした・ゆかり】
1983年1月5日生。長崎県佐世保市出身。佐世保西高等学校卒~大阪成蹊短期大学卒。2003年、筑紫野市立原田小学校に講師として赴任。2005年、人材派遣会社に転職。2010年、教職に復帰して、福岡市立香椎東小学校に赴任して全部で8校勤務する。2023年3月、福岡市立宮竹小学校での勤務を最後に退職。その後、外部講師を招いての特別授業支援事業を立ち上げた。2023年4月から半年間、起業家・エンジニア養成スクール『G’s ACADEMY』に学ぶ。2024年4月に共育パレット株式会社を設立して、代表取締役に就任。著作に『小1担任のための学級経営大事典』(2024年3月8日刊)『小4担任のための学級経営大事典』(同)がある。好きな言葉は、「上手くいったら自信、上手くいかなかったら経験、そのぐらい楽天的に攻めていけばよい」(小池一夫)。

【3Points of Key Person】

元小学校教員が小学校と社会人〝先生〟との橋渡しに挑む
◎ 小学校の授業において、外部講師を起用した特別授業として実施
◎ 学校と社会をつないで授業をプロデュースするプラットフォームを普及

小学校と社会人〝先生〟を橋渡しするプラットフォームを構築

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「初めて知る仕事があった」「ぼく自身も将来、どんな仕事をするのか楽しみだ」「すべての仕事が人のためになっており、私も人の役に立ちたいと思った」……。
2024年1月24日の昼下がり。福岡市南区にある福岡市立宮竹小学校の体育館で6年生140人を対象にしたキャリア教育として、外部講師を招いての対話セッションが開催された。
社会人講師として登壇したプログラマーやデザイナー、薬剤師、画家、自衛官ら20人の〝先生〟は、生徒からの感想を聞いて、相好を崩したという。

「いまから振り返っても特別な空間であり、嬉しく幸せな時間だった」
当日の企画・運営を担当した、共育パレット株式会社の松下ゆか理代表取締役は目尻を下げる。
小学校教員として15年間勤務した松下代表は2023年3月に退職。現在、小学校での教育ニーズに合った外部講師をつなげて授業を委託できる〝プラットフォーム〟構築に打ち込んでいる。

「いまの小学校の先生方は、全科目を教えるだけでなく、SDGsをはじめプログラミング教育、キャリア教育、ICT教育などいろいろ教えなければならないので、ものすごく大変だ」と明かす松下代表は、「学校外には、いろいろ専門家がおり、何よりも子どもたちが、さまざまな生身の大人らと出会い、本物を知る機会を得ることは大切だと思う」と生き生きとした表情をみせる。


小学校で教える外部講師を『SPOT TEACHER』(スポットティーチャー)と名付ける松下代表が教員向けにSNS発信を行っているInstagramのフォロワーは、1.5万人。
「先生ときどき猫|yukari先生(元小学校教員)先生をサポートする活動家」として、自作教材の提供や学級経営や授業づくりの有料記事を発信するnoteを約1,200人がフォローし、累計閲覧は10万回を超えている。
また、大学の教壇にも立ちながら、地元紙・西日本新聞で毎月教育コラムを執筆し、2冊の教育関連書籍を著す。

小学校勤務15年、会社勤務5年。教員を辞めて起業

将来、小学校の先生、もしくは幼稚園の先生になりたい」と、高校時代に考えた松下代表は、2年間で幼稚園・小学校の教員免許を取得できる大阪の短大へ進学した。
そして、幼稚園・小学校での教育実習を経て、小学校教員になることを選んだ。
就職氷河期世代であり、教員採用面でも熾烈を極めた状況下、松下代表は2003年、Jターン就職で筑紫野市の小学校の教壇に立った。

もっとも、最初は1年更新の講師職であり、不安定な立場に加えて更新月は勤務日数の関係で収入減になったという。
契約空白期の収入減を補うべく、人材派遣会社へスタッフ登録に出掛けたところ、面談した営業所長から自社での正社員採用を打診された。
「いつか再び教育界へ戻って来よう」との思いを抱きながら、社会人3年目に転職する。
入社当初、広報とスタッフ登録の面接を担当した後、派遣先の法人営業を担当して営業所長に就任した。
入社5年目、リーマン・ショックに端を発した世界不況による派遣働者解雇や雇い止めが相次いで発生する。これらの〝派遣切り〟が社会的に問題視され、人材派遣業も批判をさらされて事業縮小を余儀なくされた。
そうした中、松下代表は教職へ復帰を果たし、2010年から福岡市立小学校の教壇に立った。

当初、理科専科の講師だったものの、正規教員となって小学校全科目を教え始めた。そして、企業や行政などの出前授業を小学校の授業として実施し、さらに校外での体験学習にも積極的に応募した。「子どもの瞳が輝き、生き生きとした表情になる。子どもにとって本物と出会う大切な機会になった」と、松下代表は目を細める。

教員5年目、初めて担任として受け持った組は、荒れたクラスだった。
「最初は、大変な思いをしたものの、自分と子どもらを信じて無我夢中で取り組み、建て直すことができて、大きな自信になった」「その後、どのような状況においても動じることなく、〈クラスは絶対良くなる〉との自信を持って取り組めるようになった」と、松下代表は当時を振り返る。
授業づくりは好きであり、授業デザインを得意としていた」ことを自他ともに認める松下代表の状況を一変させたのは、2019年末からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行だった。
臨時休校をはじめ、ICT活用によるオンライン授業の導入などの業務が急増し、さらに教員の多忙化が進んだ。

コロナ禍で外部講師による特別授業を断念せざるを得なくなった松下代表は、InstagramをはじめとするSNSを用いた教員らによる情報発信を通じて数々の学びを得た。
「自らも先生方の力になりたい」と始めたInstagramで自作教材のプレゼント企画を行った。すると、多い時には1,000人超もの希望者が殺到し、渡し漏れを心配する事態になった。
このため、希望者が自由にダウンロードできるnoteを開始。忙しい教員向けに教材提供をはじめ学級経営や授業づくりの記事執筆を始めた。

コロナ禍明け、外部講師との連携を面倒〟に思い始めた自分自身に教員としての罪悪感を抱くようになる。
一方、もともと閉鎖的だった学校は、ますます閉鎖的になっていく。
そして、外部講師と学校との橋渡しをするプラットフォームの必要性を切実に感じた松下代表は、「世の中に無いのであれば、自分でつくれば良い」と、小学校教員を辞めて、自ら起業家への道を歩み始めた。

「スポットティーチャーを全国的に普及させたい」

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学校と社会をつないで授業をプロデュースするプラットフォームを広げていくことを通じて、『スポットティーチャー』という名称を全国的に当たり前の言葉にしていきたい」との思いを松下代表は脹らませる。

先日、かつての教え子が20歳を迎えて、「松下先生と一緒にお酒を飲みたい」という話を人づてに聞いた松下代表は、「本当に嬉しくて、教師冥利に尽きると思った」と語る表情からは、幸せな笑みがこぼれた。

DATA

名 称:共育パレット株式会社
住 所:福岡市中央区大名1-3-41 プリオ大名ビル2階
設 立:2024年4月
代表者:代表取締役 松下ゆか理
事 業:教育コーディネート事業
URLhttps://spot-teacher.jp/

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