【人物図鑑】柳川・九州の食にこだわった『有明漬』、『ゆずすこ』で日本の食文化を伝導

【画像】高橋努武@ふくおか人物図鑑

株式会社高橋商店
代表取締役社長
高橋努武

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たかはし・つとむ】
1967年2月10日生。福岡県柳川市出身。福岡県立伝習館高校卒~オクラホマシティ大学大学院経営学修士課程修了、経営学修士(MBA)を取得。帰国後、日本水産株式会社に入社して、水産部門でサケの輸入業務や国内販売業務を担当。1997年5月、株式会社高橋商店に入社して、営業業務を担当する。2000年7月1日、代表取締役社長(14代目)に就任。2018年5月、一般社団法人柳川市観光協会の代表理事兼会長に就任。座右の銘は「我以外皆我師」。

【3Points of Key Person】

造り酒屋を祖業とする高橋家の14代目であり、有明漬本舗の3代目社長
◎ 社長就任直後にそごうが倒産して売り上げの1/4が吹き飛んで経営危機
◎〝持っているモノ〟での経営再建で直売所開設、『ゆずすこ』誕生

柳川・九州の食にこだわった『有明漬』や『ゆずすこ』を製造販売

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有明海のタイラギ貝の貝柱や海茸、筑紫平野で育まれた野菜などを酒粕に付け込んだ『有明漬』━━。
川下りで知られる福岡県柳川市を代表する名産品の一つである有明漬を手掛ける高橋商店は、もともと江戸期・享保年間に創業した造り酒屋だった。
高橋家11代目が酒粕の保存性や素材の旨味を引き出す効能に注目し、有明漬を独自に考案した。その後12代目が業態を転換し、有明漬本舗として船出した。

「柳川・九州の食にこだわり、地域性の高い商品を作って販売や卸売りをしている」
高橋家14代目の当主でもある、株式会社高橋商店の高橋努武代表取締役社長は、にこやかな表情で迎える。
看板商品である有明漬をはじめ、ゆずの液体調味料『ゆずすこYUZUSCO』やうなぎのセイロ蒸し、一口サイズの同『炙りうなぎ笹めし』、有明のり佃煮『のりクロ』、大宰府産梅を使った『うめのり』、『ゆずらん梅(ばい)』ゆずシロップ、新ゆず茶などの商品を幅広く製造・販売している。

一方、有明漬本舗である高橋商店が本社・工場を構える柳川市では、漁業や農業に並び産業の柱が観光業だ。
コロナ禍前の2019年における柳川市への観光入込客数は125万2,000人であり、観光消費額は63億2,277万円だった。
「これまでの6年間のうち、半分の3年はコロナ対応に追われた中、≪団体客から個人客へ≫≪物見遊山型から学習・体験型へ≫という新たな観光のあり方に対応した施策にも取り組んだ」
2018年5月に柳川市観光協会の代表理事兼会長に就任した高橋社長は、「いまやインバウンドが観光客の半分以上を占めており、リッツカールトンの開業効果は大きく、欧米や韓国・台湾からの富裕層の観光客も増え始めた」と目を細める。

社長就任直後のそごう倒産で経営危機、独自の再建策で体質強化

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「子どもの頃から海外の生活や文化に興味があり、将来的に海外で仕事をしたいと思っていた」という高橋社長は中学校時代、ハワイでのホームステイを経験した。
その後、オクラホマシティ大学大学院で経営学修士(MBA)を取得した高橋社長は、「海外に住んでみて、改めて日本の素晴らしさを知った」

幼少期から父の背中を見て育って食品メーカーに興味があり、海外ビジネスもしたいと考えた高橋社長は、日本水産株式会社(現株式会社ニッスイ)を就職先に選んだ。
サラリーマン時代、水産部門で主にサケを手掛け、ノルウェーやアラスカ、チリなどでの海外買付で飛び回った。
従来、冷凍輸入だったサケを生食用(刺身用サーモン)として輸入したのは高橋社長所属の担当部署だった。

入社5年目、父である13代目が体調を崩したこともあり、家業の高橋商店へ入った。
入社後、営業部門を担当した後の2000年7月1日、14代目として代表取締役社長に就いた。就任して半月足らずの7月12日、当時最大の取引先だったそごうが経営破綻して、年商の1/4が吹き飛んで多額の焦げ付きも発生した。
突然の経営危機に高橋社長は、「経営再建で焦って、いろいろなことに挑戦してみたものの、ことごとく空振りに終わった。なかなか順調には進まず、模索しながらの状態だった」ことを明かす。
そして、「≪何をすべきか≫よりも≪何を持っているか≫が大事であり、≪持っているモノを生かしていこう≫」とひらめいた。
そして、みやま柳川インターチェンジから柳川市内へ向かう道沿いに広大な敷地を有する本社工場内でテント張りの観光客向けの直売所を始めた。

初月売上高27万円からのスタートだったものの、社長自らの旅行代理店への飛込営業も奏功して団体客を増やしていく。
そして、工場に併設した常設店舗を構えてコロナ禍前には、そごうで喪失した年商近くまで売り上げを伸ばした。
直売所の誕生は、顧客からの声を聴取できるだけでなく、社内に新風も吹き込んだ。店頭の繁忙期、販売補助に動員された製造担当者らは、自ら製造した商品を買い求める来店客の姿を見て、働く姿勢が大きく変わった。そして、直売店で社員一同が同じ経験をした結果、社内での一体感も醸成した。
そして毎週の『改善活動会議』『商品開発改良会議』『褒める言葉の時間』と相まって新たな企業文化を培う。

一連の取り組みで誕生したヒット商品が、『ゆずすこYUZUSCO』だ。
瓶詰めでペースト状のゆずこしょうの使い勝手を指摘する声を出発点に試行錯誤の末、新たな液体・ボトル状の商品を世に送り出した。
なお、商品名は、『ゆず』と酢の『す』、こしょうの『こ』との造語だ。

ゆずの食文化を浸透で『ゆずすこ』の世界戦略を展開

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「≪使い勝手がいい≫という声が、みなさまからの共通した感想であり、お客さま自身が営業マンになって、口コミで広がった」と商品説明をする高橋社長によると、商品の希少性や話題性で最初、ローカルメディアが注目した。
その後、全国メディアでも取り上げられてブランド化し、提携商品も相次いだそうだ。

そして、『ゆずすこYUZUSCO』は、海外28の国・地域へ輸出する。
もっとも、ゆず自体は日本の在来種である。
このため、商品を売り込む前にゆずそのものを知ってもらうべく、PRも兼ねてゆずの果汁や皮を食材や原料として現地向けに出荷した。

「最初にゆず自体の食文化を知ってもらうことから始めた結果、現地の食品メーカーによる商品化やレストランでのメニュー化という〝融合化〟が起きた、そして今日、海外においてゆずは抹茶に次ぐ日本発の人気フレーバーになってきている」と語る高橋社長の表情から笑みがこぼれる。
「日本の食文化を海外へ伝えていきたい」とする高橋社長は、「行き着くところ、根底に海外へのあこがれがあり、小さい頃から食べ親しんだ食の味覚にあった」と振り返る。
いま、高橋社長は、新たな舞台へ向けて舵を切り始める。

DATA

名 称:株式会社高橋商店
住 所:福岡県柳川市三橋町垂見1897-1
設 立:1960年12月
代表者:代表取締役社長 高橋努武
事 業:食品製造・販売
URLhttps://www.takahashi-shoten.co.jp/

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