【人物図鑑】落語好き女性3人による〝落語〟会社が、笑いと人情で世情を潤す

【画像】株式会社WMKエージェンシー 代表取締役 渡辺加奈子

株式会社WMKエージェンシー
代表取締役
渡辺加奈子

株式会社WMKエージェンシー
代表取締役
渡辺加奈子

【わたなべ・かなこ】
1969年5月2日生、福岡市出身、福岡県立筑紫高校卒~福岡大学人文学部卒。学生時代に画廊での感動をきっかけに「アートに関わる仕事をしたい」と考えて、表装・額装の会社や額縁メーカーで表装・額装[益弘1] 技術を学ぶ。2003年に独立して、額縁の制作・販売や作品展示を手掛ける店舗『DECO』を構えて個人創業。モンコレクションの業務にも従事する。2016年9月、落語好きの女性3人で株式会社WMKエージェンシーを設立して、代表取締役に就任。本業の傍ら、美案寄席やお多福寄席などを企画・運営する。

【3Points of Key Person】

◎ 落語の寄席を企画・運営する〝落語〟会社の代表
◎ 長年の鶴瓶ファンで、落語好きの仲間3人で事業会社を設立
◎ 落語をはじめ大人の文化やエンターテインメントを楽しめる都市へ

落語好きが高じ、女性3人で落語会社を生み出す

【画像】株式会社WMKエージェンシー 代表取締役 渡辺加奈子

三遊派『三遊亭』、三遊派『古今亭』、柳派『柳家』、柳派『春風亭』、 三笑派『林家』、桂一門『桂』、笑福亭一門『笑福亭』、立川――。
話の最後に〝オチ〟をつけるのを特徴とする落語は、扇子や手拭いなどの小道具を用いて一人で何役も演じながら、身振り・手振りのみで話を進めていく。
落語のルーツは、室町時代末期~安土桃山時代に戦国大名のそばに仕えて、話相手や世情を伝えた『御伽衆』と呼ばれる人たちとされる。そして、職業的な落語家と寄席の始まりは寛政10年(1798)、江戸・上野の下谷稲荷社内において初代三笑亭可楽が打った興行を祖とする説が有力だ。

「落語好きが高じて、上方落語・江戸落語を問わずに若手からベテランまで落語家を招いての落語会を主催しており、江戸時代から脈々と伝わる落語を幅広くお楽しみいただきたい」と、株式会社WMKエージェンシーの渡辺加奈子代表取締役は、にこやかに語る。
落語好きの女性3人の名前のアルファベットを社名とする同社では、寓話「美意の案配」に因んだ『美案寄席』、博多の「多」と福岡の「福」を組み合わせて名付けた『お多福寄席』などの落語会を定期的に開催している。

「福岡において、落語に特化した会社は他にない」「3人共それぞれに本業を抱えている中、趣味が高じて設立した会社だけに、落語への本気度は相当高いと思う」と、渡辺代表の表情から笑みがこぼれる。渡辺代表自身、本業としてオーダーメイドで額縁の製作・販売や額装などを手掛けるお店を営む。

なぜ、女性3人で落語専門会社を設立したのか?
この点について渡辺代表は、「最初は課外活動のつもりだったが、鶴瓶師匠をはじめ有名な落語家の方々にも出演してもらえるようになった。そうした中、各方面からアドバイスをいただき、持続的に運営していくために会社というカタチにした」ことを明かす。

鶴瓶氏宛の手紙で始まった女性3人の落語ラブ

【画像】株式会社WMKエージェンシー 代表取締役 渡辺加奈子

「いつでも楽屋へお越しください」――。落語家をはじめタレントや司会者など多方面で活躍する笑福亭鶴瓶氏の大ファンだった渡辺代表は2007年10月、嘉穂劇場での第1回落語大秘演会『伊藤園 鶴瓶のらくだ』で鶴瓶氏の落語に感動して、連絡先付の手紙を書き送った。すると、鶴瓶氏本人から直接、電話が掛かってきた。

そして、2008年11月開催の『第2回博多・天神落語まつり』への鶴瓶氏の出演に際し、渡辺代表はウクレレ教室での仲間2人を誘って3人で寄席へ出掛けた。
「なんだ、これは」「すごい。そして面白い」。お目当ての鶴瓶氏の他にも複数の演者が登壇した寄席に彼女ら3人は、「広い舞台の上で、たった一人の演者によるおしゃべりで情景が浮かび上がり、みんなが同じ場面で泣き笑いする」ことを通じて、大いに感動した。
渡辺代表自身も「時代や空間を越えて、いろいろな場面に連れて行ってくれる。受け身でなく能動的になって、みんなで一緒につくっていく芸能が落語だと思う」と、思い入れもひとしおだ。

落語の醍醐味を満喫した彼女ら3人は、落語の世界へどっぷりとはまっていく。 
本格的な落語ブームの到来前だったにも関わらず、3人は福岡で開催される落語会をくまなく探して足を運び、さらに東京や大阪へも遠征した。
そうした状況下、鶴瓶氏の弟子である笑福亭瓶二氏と一緒に飲む話が上った際、「3人で東京へ行くよりも、瓶二氏を福岡へ呼んだ方がいいかも!?」ということに3人は気づいたという。
そして、福岡での飲み会に加えて、寄席を設けることに瓶二氏本人が快諾したこともあって、2011年1月29日に第1回目となる落語会を開催した。

「最初は高座の作り方、会を開く上でのルールや決まり事も分からず、手探り状態だったが、多くの人の助けを借りて大変な賑わいになった」と、渡辺代表は懐かしむ。
そして、だんだんと他の落語家とのご縁も広がり、2回、3回と開催回数を重ねていく。当初は年3、4回程度のつもりで始めたものの、月に3回開催することもあり、年間15〜20回の落語会を開いている。
落語会の企画・運営に加えて、会社や学校、飲食店、寺院から依頼されての落語イベントの企画案件も手掛ける。

もっとも、新型コロナウイルス感染症の影響は、高座にも及んでおり、「集客に関しては苦労することの方が多いが、今回のコロナ禍でさらに厳しさを増した上に受託業務も無くなってしまっている」
ウィズコロナ・ポストコロナ時代における寄席のニューノーマルを模索する渡辺代表は、「女性3人で取り組んでおり、業界的にも比較若い存在なため、今まで落語を聴いたことのない世代や女性の方にも落語を楽しんでいただけるようにしていきたい」との思いを抱き続ける。

落語を基点にして、大人の文化やアートを楽しむ

【画像】株式会社WMKエージェンシー 代表取締役 渡辺加奈子

「大人が楽しめるエンターテインメントや文化、アートを福岡に根付かせたい」と、渡辺代表は瞳を輝かせる。
学生時代に訪れた画廊で感動した渡辺さんは、《アートに関わる仕事をしたい》との思いが募って、表装・額装の会社や額縁メーカーで表装・額装技術を学んだ。独立後に店舗『DECO』を構える渡辺代表は、絵画や写真はもちろん、立体的なものまで依頼された作品の額装を手掛ける。

「福岡市は美術館や博物館などの公共施設が多い半面、その対象はあまりにも広過ぎる。もっと“偏って、個性に富んだ”施設やイベントもあっていいのではないか。大人の文化やアートを発信しながら、美味しい食事も味わえるような〝場〟をつくっていきたい」と胸をふくらませる渡辺代表は、「慌ただしい日常を送っている方々には、寄席を通じて日常を離れた時間を過ごしていただき、気分転換を図ってほしい」「まずは、気軽な気持ちで寄席へお越しいただきたい」と、優しくほほ笑む。

DATA

名 称:株式会社WMKエージェンシー
住 所:福岡市南区桧原2-54-9
設 立:2016年9月
代表者:代表取締役 渡辺加奈子
事 業:落語・寄席の企画・運営
URLhttps://wmk-agency.com/

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