【人物図鑑】起業家教育による人づくりと政策イノベーションで九州の自立に挑む

【画像】筑紫女学園大学 教授 谷口博文

筑紫女学園大学
教授
谷口博文

【画像】筑紫女学園大学 教授 谷口博文
筑紫女学園大学
教授
谷口博文

【たにぐち・ひろふみ】
1954年6月20日生、福岡市出身、福岡県立修猷館高校卒~東京大学法学部卒。1977年大蔵省(現財務省)に入省、主計局主計官、法規課長などを経て、九州財務局長、金融庁総務企画局審議官、関東財務局長、国土交通省政策統括官に就任。2012年財務省を退職。2009年8月九州大学産学連携センター教授に就任して、2010年『地域政策デザイナー養成講座』(現地域デザインスクール)を開設、九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター長を経て、2019年1月九州大学を退職。2019年11月筑紫女学園大学教授に就任。篠原公認会計士事務所グループ内で谷口政策イノベーションラボを主宰。著書に『政策イノベーション~kyushu-Fukuokaからの挑戦~』(幻冬舎刊)がある。趣味はバイオリン演奏、山登り

【3Points of Key Person】

大学で起業家教育を取り組み、政策イノベーションラボを主宰
◎ 元財務官僚、九大時代に地域政策講座や起業家教育に取り組む
◎ 『九州デジタルガバメント』構想の実現に挑む

起業家教育に取り組み、政策イノベーションを発信

【画像】筑紫女学園大学 教授 谷口博文

大蔵省入省、主計局主計官、九州財務局長、金融庁審議官、国土交通省政策統括官……。長年の官僚経験を経て、九州大学で地域デザイナー講座を立ち上げて、ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センターのセンター長などを歴任して現在、筑紫女学園大学で起業家育成に取り組む谷口博文教授は、「いま大事なことは、誰もがみなデジタル化に象徴されるテクノロジーの恩恵を受けながら、社会全体を底上げしていくことだ。これらの取り組みは、SDGsや仏教などの考え方にも相通じる」と、にこやかに語る。

公共(Public)と民間(Private)とのパートナーシップ(Partnership)による自立的な地域経営の研究と共に起業家教育で挑戦する若者らの育成に尽力する谷口教授は、「≪崩さないと、新しいモノはできない≫のは真理といえる。破壊の後に起きる創造やノベーションに向けて、いろいろ仕掛けている」と布石を打つ。

〝創造的破壊のあとにやってくる新しい時代を九州政府で創ろう!〟という旗印の下、谷口教授はインターネット上に開設した『谷口政策イノベーションラボ』において、「従来の秩序を破壊して、新秩序を打ち立てる事業に役所自身でチャレンジするのが、規制改革・行政改革の本質である」「法令を全面的に見直して、デジタルサービスに合わせた新しい行政に切り替える必要があり、ユーザー目線の公共サービスの再設計が求められる」「覚悟を持った自治体しか、真のデジタルガバメントを実現できる可能性はなく、トップの責任と判断で動かしていくべきだ」などの言論を〝政策イノベーション〟として発信し続ける。

財務官僚を経て九大で地域経営人材や起業家を育成

【画像】筑紫女学園大学 教授 谷口博文

「あの時代、大蔵省が制度や社会的な仕組みなどをつくっており、新しい時代づくりを企画・立案するのが役人の仕事だと考えていた」と、目を細める谷口教授は東大法学部卒業後、大蔵省(現財務省)に入省した。
国家予算の編成を担う主計局において約10年間、主計官や主査を経験した谷口教授は同局法規課長を経て、九州財務局長として赴任した。その後、金融庁へ出向し、総務企画局審議官として金融行政の戦略立案や総合調整機能のシステムづくりを手掛けた。
そして、関東財務局長を務めた後、国土交通省に赴いた政策統括官時代に官民連携パートナーシップ(PPP)と出会って、日本の社会資本を整備していくための新たな手法の一つとして導入に尽力した。

この間、日本を取り巻く経済環境はバブル崩壊を契機に大きく変貌した。
「主計局での予算編成時に〝現場が遠い〟という危惧を抱いた。その後、中央官庁はさらに現場に疎くなり、霞ヶ関から日本全体を動かしていくのは難しいと悟った」とする谷口教授は2009年8月、九州大学産学連携センター教授に就いた。
「時代的にも成熟し、レガシー化したシステムが〝制度疲労〟した感もある中、社会を変えていくのは権力でなく、人づくりである」と確信した谷口教授は、≪地域課題を把握し、国内外の情勢や近未来を踏まえた政策を立案できる人材育成≫を使命とする地域政策デザイナー講座を立ち上げた。

地域政策を巡るキーワードは21世紀を迎えて以降、道州制から地方創生、イノベーションへと変遷していっている。
そして、自らの覚悟と責任感で地域経営へ乗り出していこうとした志自体は幻に終わったものの、谷口教授は、「今日のような激変していく時代に腕力を発揮するのは、いわば〝乱暴者〟タイプのリーダーだ。彼らが自らの政策を実践していく上で必要なロジックづくりや理論づけ、さらに地域経営を担える人材育成に取り組んでいる」と地域と向き合う姿勢は不変だ。

「まずチャレンジしてみる。アクションが結果を呼ぶ」

【画像】筑紫女学園大学 教授 谷口博文

「もはや昔には戻れない。コロナ災厄がなくても起こっただろう未来への変化が速まっており、しかも時代の進化は不可逆的だ。既に新しい価値が生み出された世界をわれわれは生きている。何が起きるかわからないし、また何が起きてもおかしくない時代になっている」とする谷口教授は、九州におけるイノベーティブな取り組みの一つとして、『九州デジタルガバメント』構想を練る。

「リアルな世界において現行のシステムを変えなくても、リアルの上にデジタルを別途架装していくことは可能だ。そして、リアルの世界のルールと別にデジタルのルールで運用していくデジタルの世界の方が便利で有効なら、次第にリアルからデジタルへ移行していく」とする将来図を谷口教授は描く。

過去、明治維新や太平洋戦争の終戦などに伴う一大変革について、黒船やGHQなどの外圧の存在に着目して、「日本が自ら変わらなかった要因は、これまでの日本人の心情や精神面の中にある」とみる谷口教授は、「小さなことでも良いので、まずアクションを起こして、人を動かしてみる。チャレンジしていくこと自体が現場を動かす原動力になって、やってみたことが結果的に世の中を動かしていく大きな力にもなり得る」と、教育現場で奮闘し続ける。

〝芸術の都〟ウィーンの日本大使館勤に1991年からの3年間勤務した谷口教授は、子どもの頃に習っていたバイオリン演奏を再開させて、いまでも趣味の一つになっている。
「バイオリンを弾く楽しみを通じて、自分の世界が大きく変わっていった」と弾んだ表情をみせる谷口教授は、多彩な音色で〝九州の未来〟を奏でる。

DATA

名 称:筑紫女学園大学(学校法人筑紫女学園)
住 所:福岡県太宰府市石坂2-12-1
開 学:1988年4月(創設:1907年4月)
代表者:学長 中川正法  理事長 杣山眞乘
事 業:教育、研究、社会連携
URLhttps://www.chikushi-u.ac.jp/
(谷口政策イノベーションラボ) https://policy-innovation.com/

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