【人物図鑑】小児科医が児童虐待防止に取り組み、社会問題の解決に地域連携で挑む

【画像】飯塚病院 小児科診療部長 田中祥一朗

飯塚病院
小児科診療部長
田中祥一朗

【画像】飯塚病院 小児科診療部長 田中祥一朗
飯塚病院
小児科診療部長
田中祥一朗

【たなか・しょういちろう】
福岡県飯塚市出身、1977年6月5日生、熊本マリスト学園高校卒~久留米大学医学部卒。久留米大学病院や関連施設で小児医療に従事。2013年より公認インストラクターとして、赤ちゃんの救命と重篤な障害の回避につなげるための新生児蘇生法講習会を多数開催。「新生児低体温療法中の加温加湿」をテーマに、博士(医学)を取得し、2019年より、飯塚病院小児科診療部長を務める。2020年、児童虐待防止拠点病院である飯塚病院小児虐待防止委員会(AI-CAP)の3代目委員長に就任。2021年3月、福岡校2期生として、事業構想大学院大学を修了。事業構想修士(専門職)。2021年5月、『Children First FUKUOKA』を立ち上げて代表に就任。2022年7月、発起人として筑豊地区で児童虐待防止のネットワークを始動。趣味は子どもと遊ぶこと。

【3Points of Key Person】

100年以上の歴史を持つ飯塚病院で虐待防止活動に邁進する小児科医
◎ 全国に先駆けて児童虐待防止の地域連携ネットワークを立ち上げる
◎ 子どもたちの明るい未来へ、公民共創で課題解決に取り組む

全国に先駆けて児童虐待防止のネットワークが発足

【画像】飯塚病院 小児科診療部長 田中祥一朗

「当院は地域の方々の厚い信頼に支えられ、地域医療における最後の砦として、安心して暮らせるまちづくりに努めている」と飯塚病院の田中祥一朗小児科診療部長は語る。

厚生労働省によると、2021年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談件数は20万7,659件と過去最多となり、過去10年間で3倍増だった。厚労省自身も「深刻な児童虐待事件が後を絶たず、社会全体で取り組むべき重要な課題」との認識を示す。

こうした中、福岡県筑豊地区で2人の小児科医が呼びかけて、各自治体に設置されている要保護児童対策地域協議会が連携して児童虐待の防止に取り組む『筑豊地区要保護児童対策地域協議会自治体間ネットワーク』が、立ち上がった。
「子どもの命を守る小児科医として児童虐待は避けては通れない問題だということを痛感した。身近で痛ましい事件が続き《何かできることはないか》との思いも高まった」。発起人の一人である田中医師は、やさしいまなざしで語る。

福岡県内においても筑豊地区は児童虐待件数で突出しており、小児人口あたりの件数で県内の8児童相談所で最多だった。特に2018年以降、筑豊地区で児童の虐待死亡事件が相次いだことも発足の背景として大きかったといえる。

全国的にも先駆けといえる取り組みである同ネットワークには、筑豊地区の全15自治体が参加し、福岡県田川児童相談所、飯塚病院、そしてもう一人の発起人である馬場晴久医師の所属先である田川市立病院も加わっている。
児童虐待には貧困をはじめ、居場所の喪失、コミュニケーション不足などのさまざまな要因が複雑に絡み合っており、「発足後に行ったアンケート調査の結果、現状における共通の課題は、情報共有と人材育成、スキル向上だということが明らかになった。これらの課題解決に取り組んでいきながら、地域で子どもを見守る力を育んでいきたい」と、田中医師は、はつらつとした表情をみせる。

子どもの総合医として、地域連携で社会問題に挑む

【画像】飯塚病院 小児科部長 田中祥一朗

医学部を卒業した後、飯塚病院で小児科専門医研修中であった田中医師は、心肺停止となった子どもの担当医となった。寝たきりを覚悟するほどの厳しい状態であったが、劇的な回復を遂げ、子どもの生命力に感動したと言う。
それから月日が経ち、「初給料で母親にプレゼントを贈ります」と、元気に成長した姿を知らせてくれた。小児科の仕事は重大な責任を負うものだが、子どもの未来を創ることを感じることができ、小児科医の醍醐味ともいえる瞬間であった。「原点は現場で出会った子どもたちであり、子どもや家族からエネルギーをもらっているのは自分」と話す。

小児科専門医となった後に大学へ戻り、小児科医としてキャリアを積んできた田中医師は、2011年に発生した東日本大震災で被災地への医療支援として、岩手県大船渡市と陸前高田市へ足を踏み入れた。
「現地では、医療をはじめ地域全体が大変だったにも関わらず、地元の人たちが互いに助け合って協力していく姿をみて感動を覚え、みんなで手を取り合っていくことの大切さを得心した」という田中医師は以後、地域や社会にも目を向けるようになったそうだ。

今日、日本は世界最高レベルの平均寿命や医療水準を実現している。
しかし、子どもの精神的幸福度は先進国で最低レベル。「病気を治す専門家であると共に、社会課題に取り組んでいくことで子どもたちが夢を持てる明るい未来にしたい」「虐待や貧困などは、いわば社会的な病いであり、地域の人たちが一緒になって解決に向けて取り組んでいくことが大事になっていく」と説く。

「小さな命に、大きな希望、明るい未来を描いて」

【画像】飯塚病院 小児科部長 田中祥一朗

田中医師らが取り組む児童虐待に関して、虐待死した子どもの約半数が0歳児という現実がある。背景としては、予期しない妊娠や若年出産などが挙げられる。
田中医師は、講演活動を通じて、包括的性教育の重要性を訴え続けている。
2007年、AI-CAP初代委員長の岩元二郎医師のすすめで、ハワイ大学主催のセミナーに参加し、日米の医療事情や医学教育のちがいを目の当たりにした。当時、医療の中心は「病気を治す」ことだと考えていた田中医師であったが、米国では子どもの健康診断の質・量ともに充実しており、「予防」の重要性を強く感じたからだ。

その後も、公民共創事業として、多職種が連携支援する『低出生体重児に特化した乳幼児健診』や筑豊全域で救急救命士を対象とした新生児蘇生法講習会を行うなど、小さな命を救うため、大きな情熱を傾けている。
事業構想大学院大学福岡校に学んで事業構想修士を取得した田中医師は、『Children First FUKUOKA』を2021年5月に立ち上げた。

「たしかに筑豊地区での課題は多いものの、課題先進地という見方もできる」「だからこそ、課題解決に一早く取り組み、小さな成功をカタチにしていくことで『筑豊方式』というロールモデルをつくり上げながら、同様の課題を抱える全国各地へ広げていきたい」と意欲的だ。
田中医師は、児童虐待などの課題解決を目指し、そして貧困や孤立をはじめとした子どもを取り巻く社会問題に対しても解決に向けた処方箋を書き続ける。

DATA

名 称:株式会社 麻生 飯塚病院
住 所:福岡県飯塚市芳雄町3-83
創 業:1918年8月
代表者: 開設者 麻生巌、院長 増本陽秀
事 業:病院事業(診療科目43科)
URLhttps://aih-net.com/

Follow me!