【人物図鑑】ランドスケープで見えてくる、より良い都市空間による価値ある社会創出

株式会社Takebayashi Landscape Architects
代表取締役 竹林知樹

株式会社Takebayashi Landscape Architects
代表取締役

竹林知樹

株式会社Takebayashi Landscape Architects
代表取締役 竹林知樹
株式会社Takebayashi Landscape Architects
代表取締役 竹林知樹

【たけばやし・ともき】
石川県出身、九州大学工学部地球環境工学科建設都市工学コース卒~九州大学大学院工学府都市環境システム工学修士課程修了~コーネル大学大学院ランドスケープアーキテクチュア学科修士課程修了。Studio Vulkan ランドスケープ計画設計事務所(スイス・チューリッヒ)に入社。帰国して大成建設株式会社設計本部専門技術部環境デザイン室に転じた後、2016年福岡で竹林知樹スタジオを開設。同年から2年半九州大学大学院工学研究院環境社会部門の学術研究員も務めた。2019年8月株式会社Takebayashi Landscape Architects を設立、代表取締役に就任。ランドスケープアーキテクト、自然再生士、北九州市景観アドバイザーでもある。

【3Points of Key Person】

◎ランドスケープを生かして、より良い都市空間を創出する
◎北陸に生まれ、日米欧で学び・働き、福岡で起業した専門家
◎新たなランドスケープの挑戦で〝良い社会〟を創出していく

ランドスケープを切り口により良い都市空間を創出する

株式会社Takebayashi Landscape Architects
代表取締役 竹林知樹
画像左上・右上・右下:福岡市提供

アクロス福岡(第12回・1998年度)、のこのしまアイランドパークお花畑(第23回・2009年度)、JR博多シティ(第25回・2012年度)、博多千年門周囲の景観~承天寺通り~(第26回・2014年)、警固公園(第26回・2014年)……。
これらのスポットは、福岡市都市景観賞の受賞作品でもある。福岡市都市景観賞は、福岡の魅力をつくり出しているランドスケープをはじめ、建築物や活動、広告を表彰して、市民の景観に対する意識を高めることを目的に表彰式を開いている。

「ランドスケープとは、建物から一歩外に出た風景。つまり、建築外構や道路、空地、公園などの人工的な空間に加えて、川や山、海などの自然なども含めたすべての屋外環境を対象とする」。
ランドスケープをメーンに土木や造園の企画・設計・監理、景観デザインや都市デザインを手掛ける株式会社Takebayashi Landscape Architects の竹林知樹代表取締役は、ランドスケープについて言及する。
ランドスケープとは本来、景観や風景などの意味合いだ。日本では明治以降、ランドスケープに『造園』という和訳を適用した経緯もあって、狭い範囲で造園や作庭を指すこともある。一方、《自然》と《人間》の関係性を一体的に考える場合、ランドスケープ本来の概念で都市空間の形成や地域づくりにアプローチしている。
「自然環境も含めた都市の公共空間を人々が気持ちよく使えるように設計していくことによって、住民にとって意義のある〝場〟となり、都市としての価値も高まって、人々が豊かに暮らすことができる」と、竹林代表は説く。

かつて建築物や構造物の建設が優先されて、残された余白が歩道や公園、広場とみなされていた。しかし、社会の高度・複雑化に伴って、都市環境におけるこれらの公共空間の重要性も認識されて、土地利用計画や街区デザインの計画段階からランドスケープの専門家も参画し始めた。
自然風景や歴史的建造物に配慮しながら、その魅力を生かして都市空間や地域をより良く計画・設計する専門家である竹林代表は、地域プランナーやプロデューサー、自治体、建築事務所などからの依頼でプロジェクトチームに参画していくことが多い。 
これまで遠賀川の水辺景観をはじめ、宮崎県日之影町での小水力発電施設、さらに世界銀行での都市型洪水対策研修プログラムの開発も手掛けた。中でも小水力発電施設では、地元の伝統的素材を用いた石積み小屋にデザインすることで周囲の風景との調和に加えて、地元住民が愛着と誇りを持つランドマークとなった。

北陸生まれ、日米欧で学び・働き、福岡を拠点に活動

株式会社Takebayashi Landscape Architects
代表取締役 竹林知樹

北陸生まれの竹林代表と福岡との出会いは大学受験時、「もともと福岡と縁もゆかりも無かったが、私自身にとって〝未開の地〟だった福岡へ4年間の〝長期旅行〟的な感覚で進学した」という。
九州大学工学部地球環境工学科に入学した竹林代表は、建設都市工学コースを専攻した。その後、大学院工学府都市環境システム工学修士課程へ進んだ。
大学院時代、建設設計工学研究室で手掛けたのが福岡県直方市内での遠賀川の水辺風景づくりだった。

最初、地元住民らが入った協議会や市民部会への助言だったが、途中での洪水発生もあって河川改修というハード面も関わるようになった。
河川改修では、設計の初期段階から住民参画のプロセスを取り入れた結果、従来のコンクリートブロックによる護岸でなく、石積みや草地などの水辺の自然を生かした護岸で親水空間に生まれ変わった。治水と親水を両立させて、住民にとって〝憩い〟の場となった遠賀川直方の水辺景観は、土木学会デザイン賞の最優秀賞にも輝いた。

ランドスケープの技法を用いた風景づくりによって、地域での新たなプレーヤ誕生やビジネス創出などを体感した竹林代表は、本格的に学ぶためにコーネル大学大学院ランドスケープアーキテクチュア学科修士課程修了に留学した。
そして、ランドスケープアーキテクトとしての第一歩を踏み出したのは、スイス・チューリッヒに拠点を置くStudio Vulkan ランドスケープ計画設計事務所だった。「大学2年時にヨーロッパの都市を見て回った中で、古いまちなみと新しい都市機能が調和したチューリッヒに魅力を感じていた」からという。
約1年間の武者修行を経て帰国後、大成建設株式会社に中途入社して、ランドスケープを手掛ける環境デザイン室で経験を積んだ。2016年に福岡へ戻った竹林代表は、個人事務所を立ち上げるとともに母校の学術研究員も2年半務めた。

様々な人が街に関わり合う社会に向けて役立ちたい」

日米欧の3拠点で学び、働いた竹林代表は、「創業して3年でまだまだ開拓段階。福岡に同様の会社がなく、前例の無い仕事をしているものの、福岡独自のフロンティア精神は私自身の気質に合っている」。 
福岡の〝水が合った〟感のある竹林代表は、「いろいろな人たちが街や地域に関わり、より良い社会の方向に向かうためにランドスケープの仕事で役に立ちたい」と自然体を崩さない。

ランドスケープの手法や技法を用いた、価値ある、豊かな空間づくりに向けた住民参加の〝協働のデザイン〟を手掛けてきた竹林代表は今後、「公共意識につながる活動のデザインや、個々人の主体的な参加が集まって社会が形成されていく活動デザインを通じて、公共性の高い場所や空間、構築物をランドスケープのデザインや共創活動によって、もっと意義がある質の高いものに変えられるのではないか」と考える。
福岡/九州の地に芽生えたランドスケープというタネが、どのような花を咲かせて、実を結ぶのだろうか、見守っていきたい。

DATA

名 称:株式会社Takebayashi Landscape Architects
住 所:福岡県糸島市潤 3-23-17-105
創 業:2016年4月
設 立:2019年8月
代表者:代表取締役 竹林知樹
事 業:土木、造園一般の企画、設計および監理、景観デザイン、都市デザインに関する調査、研究および計画立案、都市計画、地域計画に関する調査・研究および計画立案、雨水の利活用、流出抑制、雨水浸透型緑地に関する調査、研究、計画および設計

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