【人物図鑑】子どもの貧困や貧困の連鎖の解消に向けて無料学習会を開き続ける
特定非営利法人いるかねっと
代表理事
田口吾郎
【たぐち・ごろう】
福岡市出身、1977年12月15日生、福岡大学人文学部歴史学科卒。株式会社リクルートや楽天株式会社、有限会社いるかでの勤務を経て、東日本大震災でのボランティア活動に取り組んだ後、2013年10月にNPO法人いるかねっとを設立して、代表理事に就任。2014年1月生活支援ワンコイン家事援助サービス、2014年12月無料学習会『マナビバ』を立ち上げる。現在、介護福祉専門学校、福祉研究カレッジ天神校講師、一般社団法人SINKa理事も務める。趣味は少林寺拳法と読書。尊敬する人物はマーティン・ルーサー・キング牧師、マハトマ・ガンジー、ネルソン・マンデラ元大統領。好きな花はカモミール(花言葉は「逆境に負けない」)。
【3Points of Key Person】
◎子どもの貧困や貧困の連鎖の解消に向けて無料学習会を開催
◎リクルート、楽天を経て震災ボランティア活動後、帰福して設立
◎学習支援活動をリソースとしたヨコ展開を図っていく
子どもの4人強に1人が貧困な状況下、無料学習会を開く
貧困にあえぐ子どもの割合は日本全体で7人に1人、福岡県は4人強に1人――。文部科学省初等中等教育局の修学支援プロジェクトチームが2019年3月に発表した『就学援助実施状況等調査結果』によると、生活保護家庭と困窮が認められた家庭の子どもに学用品や通学費・修学旅行費などを支給して就学を援助した割合は、日本全体で15.04パーセントだった。
一方、福岡県においては23.07パーセントを記録して、全国でもワースト2位という状況にある。
生活保護・就学援助世帯の子どもら向けた無料学習会『マナビバ』を立ち上げた特定非営利法人いるかねっとの田口吾郎代表理事は、「行政の取り組みを悠長に待っていても今年の高校受験を控えた子どもたちには間に合いないので、やむにやまれずに2014年から無料学習会『マナビバ』を立ち上げた。市営団地が多い福岡市西区をからスタートして最初の5年間で最大で福岡市内23カ所(2018年度実績)まで増やしている」と、発足からの経緯を語る。
マナビバには現在、高校受験を目指す中学3年生ら約100人を中心に200人を超える子どもたちが通う。運営面では九州大学などに通う学生や社会人ら1週間当たり約100人のボランティアの協力を得て、1対1もしくは1対2の個別指導を行う。
公民館や集会所などの会場を借りて無料の学習支援を手掛け、活動原資を企業・団体や個人からの寄付金や助成金で賄いながら運営する。マナビバに通う子どもらの合格率も年々上がっており、今日では公立高校の一般入試合格率は約80パーセント、私立高校入試も含めるとほぼ100パーセントという実績を上げている。
いるかねっとでは、マナビバのほかにもゴミ出しや風呂・トイレの掃除などを1回100円で提供する生活支援ワンコイン家事援助サービスを提供する。さらに平日の日中に地域の居場所として開放する『いるかサロン』、お互いの本を持ち寄った『いるか図書館』、介護の無料相談や法律・生活などの相談なども手掛ける。
一連の取り組みに対して福岡県から『ふくおか共助社会づくり表彰』を受け、ベネッセ子ども基金やみずほ銀行、福祉医療機構、こどもの未来応援基金などからの助成金も獲得した実績をもつ。
「まちのやさしさをボランティアというカタチに変える」
非貧困世帯59.1%vs.生活保世帯24.7%――。
日本財団が2016 年 3 月 に発表した『子どもの貧困の社会的損失推計~都道府県別推計~レポート』によると、福岡県の大学・短大進学率でも教育格差が生じていた。
少林寺拳法に打ち込む学生時代を過ごした田口代表理事は、ドイツの社会学者であるマックス・ウェーバーの著作を読んで《社会に見えない壁がある》ことを知った。その後、自身の大学入学時、地元の市営団地から大学に進学した者はいなかったという事実を接して、大学進学での教育格差に疑問を抱くようになった。
「自分を変えたい。そして何かを変えていきたい。そのために自分自身を鍛える場として選んだ就職先がリクルートだった」という田口代表は契約社員として2年在籍した後に楽天株式会社に転職した。
対照的な社風だったが、楽天が成功のコンセプトとして掲げた《スピード!!スピード!!スピード!!》《仮説→実行→検証→仕組化》《常に改善、常に前進》などは今日、経営していく上でも生きている。
2011年3月に発生した東日本大震災では、友人が多く住む被災地でボランティア活動に取り組んだ後、「何か人のために役に立ちたい」と考えた田口代表理事は地元・福岡へ戻った。
そして、親族が経営する福祉会社・有限会社いるかでヘルパーとして働く中で地元の高齢化問題に気づき、2013年10月にNPOを立ち上げて、2014年1月から手掛けたのが誰もが使えるワンコインでの生活支援サービス事業だった。
「地域で取り組めることは自分たちでやっていこうと立ち上げた。私たちの住む地域には、多くの優しさがある一方、多くの困った人たちもいる。このまちの優しさをボランティアというカタチに変えて、多くの困った人たちにこのまちで暮らして良かったと感じてほしい。そして、このまちに誇りに感じてもらいたいとの思いでスタートした」
田口代表理事が、家庭の経済格差が子どもたちへの教育格差となって、将来的な収入格差も生む《貧困の連鎖》を断ち切るべく、2014年12月から取り組み始めたのがマナビバだった。
学習支援をリソース放課後等デイサービスなどへヨコ展開
「NPOとしては、安定的な経営体制を作ることが出来なかった」と苦笑いする田口代表理事は、2019年10月にNPOを母体の福祉事業会社と合併させた。
学習支援活動をリソースとしたヨコ展開として、既存サービスの放課後等デイサービス事業の拡大やこども食堂のネットワークの強化も手掛けていく考えだ。
《困ったときはお互い様》という互助組織づくりを通じて将来的には地域通貨を核とした新たな有償ボランティア制度の構想も練る田口代表理事は、「設立時に少子高齢化という〝荒波〟に負けないまちをつくりたいという思いが団体名の由来する」という。
ソーシャルビジネス・コミュニティビジネスという〝大海原〟において、田口代表理事は自らの理想を目指して、《希望の星 胸にのこして 遠く 旅だつ》(出典『海のトリトン』主題歌)。
DATA
名 称:特定非営利法人(NPO)いるかねっと
住 所:福岡市西区上山門1-3-27
設 立:2013年10月18日
代表者:代表理事 田口吾郎
事 業:無料学習会マナビバ、ワンコインサービス、いるかサロン、訪問介護、居宅介護支援、相談支援、放課後デイサービス、デイサービス、短期入所
URL:http://npo-irukanet.com/
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