【人物図鑑】バス好きの、バス路線マニアによる、バス停を愛する者のための『福岡バス停図録』を刊行
バス路線探険家
『バス路線探検家の会』主宰
沖浜貴彦
【おきはま・たかひこ】
京都市出身、1972年8月15日生、福岡県立修猷館高校卒~九州大学文学部哲学科(美学美術史専攻)卒。中国・復旦大学博物館系への留学を経験。2008年ブログ『ほぼ西鉄バスの旅』を始める。2011年富士食品株式会社に入社。2016年、書籍『秘境路線バスをゆく』への寄稿をきっかけにバス路線探検家を名乗り始める。2023年5月、『福岡バス停図録』を出版。バス愛好者らが集うサロン『バス路線探検家の会』の主宰でもある。
【3Points of Key Person】
◎ バス路線、バス停、バスをこよなく愛する『バス路線探検家』
◎ 修猷館~九大~中国・復旦大を経て、バス路線探検家に行き着く
◎ 2033年刊行予定の『福岡バス停図録』続編に向けての収集を続ける
「バス路線図は宝の地図であり、バス停は幸せの目印だ」
車両数2,430台、輸送人員2億932万人、運送収入400億円、実車走行1億862万キロ(2022年度)━━。
福岡県民にとって日常風景の一つである、西鉄バスは企業グループでのバス保有台数・輸送人員・走行距離において全国のトップを走る。
福岡市内には、約1,000カ所にも及ぶ西鉄バスの停留場があるといわれる中、これらのバス停を網羅した『福岡バス停図録』が、2023年3月に出版された。
「バス路線マニアである私にとって、バス路線図は宝の地図であり、バス停は幸せの目印となり、図録は自己満足が詰まった一冊といえる。10年後、バス路線を検証する上で一つのアーカイブになれば、嬉しい」と、バス路線探検家である沖浜貴彦さんは、目尻を下げる。
A4判サイズの『福岡バス停図録』の表紙は、西鉄バスが導入している国内4大バスメーカーの車両5台のイラストが飾る。裏表紙は、沖浜さん自身が〝バス乗り〟になる原風景の一つである星の原団地バス停の夕暮れをイラストで描き出した。
もっとも、フルカラー印刷の本文218頁自体は、バス停名を記した行灯または鉄板の写真に加えて、バス停のある風景写真、西鉄公式のバス停コード番号をセットにした、正真正銘の図録だ。
「福岡市内に約960カ所のバス停がある」。知人の西鉄社員からの言葉が、図録づくりの端緒となった。2008年からブログ『ほぼ西鉄バスの旅』を書き始めた沖浜さんは、2016年の書籍『秘境路線バスをゆく』への寄稿をきっかけにバス路線探検家を名乗るようになった。
「執筆した約7000本のブログ記事内で、福岡市内約960カ所の約半分しか紹介していないのは、怠慢ではないか」という思いがきっかけになり、図録づくりへのスイッチが入った。
毎週末に20カ所のバス停を撮影すれば、1年で1000カ所の記録が達成できるとの目算で、2022年4月〝ワンマン運行〟で発車した。
しかし、同好の仲間を巻き込むことに価値があるのでは?という考えから、周囲のバス好きにも声をかけ、26人での〝共同運行〟に移行した。
もっとも、バス停の性格上、移管や廃止、名称変更は付き物だ。このため、基準日の設定を求められた沖浜さんは、基準日を2022年8月15日時点と設定した。くしも沖浜さん自身にとって、50歳を迎える節目の誕生日でもあった。
週末を中心にバス路線探検家として東奔西走する沖浜さんは普段、『糸島たまご屋本舗』ブランドで卵加工食品を製造・販売する富士食品株式会社に勤務するサラリーマンであり、二足のわらじを履き続ける。
書籍『秘境路線バスをゆく』に次いでNHK旅番組でもバス路線を紹介
バス路線探検家である沖浜さんが、バスに目覚めるきっかけとなったのは幼少期、自宅トイレの壁に貼られていたカラフルな西鉄バス路線図だった。
「まるで宝の地図のように思えていた」という沖浜さんは以後、各バス路線の終点を訪ね、バス停を巡って行くうちに筋金入りのバス路線マニアになった。
修猷館時代、日本史の授業で歴史の面白さに目覚めた沖浜さんは、地元進学を望む家庭事情もあり、恩師の母校でもある九州大学文学部を志した。
そして九大時代、美学美術史を専攻した沖浜さんは卒業後、中国・上海にある復旦大学博物館系へ留学する機会を得て、現地へ赴いた。
親しい同級生からは、研究者、もしくは学芸員になるのではないかと目されていた中、紆余曲折の末にバス路線探検家に行き着いた。
マニア歴で40年以上のキャリアを持つ沖浜さんだが、一度〝途中下車〟しかけたこともある。2003年に結婚した沖浜さんは子どもを授かると、「妻子持ちなのに今さらバス路線マニアをやっていてもいいのか」という気持ちが高まったのだ。
しかしその後、二人目の子どもが生まれて歩き出したタイミングで、リーマンショックへの景気対策の一環として、土・日・祝日に西鉄グループの路線バス全線が半年間乗り放題になる『ホリデーアクトパス』が2009年に限定販売された。
再びマニアの心に火が付いた沖浜さんは、売価1万2000円のホリデーアクトパスを使って、通常運賃換算で23万円相当分のバス路線を乗り継いだ。限定商品だったホリデーアクトパスは継続販売が決まり、現在でも定期券として販売されている。
「バス路線マニアはマイノリティーだが、NHKの旅番組『九州沖縄推し!ディープツアーズ』に案内人として登場する機会を得て、『テレビ番組のコンテンツにもなり得る』と評価されたことが本当に嬉しかった」と、沖浜さんは目を細める。
そして同番組のゲストである、お笑いコンビ『スピードワゴン』の小沢一敬さんを、国東半島を舞台として路線バスマニアのディープな世界へいざなった。
10年後を目標に『福岡バス停図録』続編を刊行
「バス路線探検家は基本的に、バスに乗っている人だ。バスがどんなところを走っているのかに対して興味を抱き、個人的には特に郊外や終点などへの関心が高い」とする沖浜さんは、『バス路線探検家の会』を定期的に主宰している。
沖浜さん自身は印象に残ったバス路線として、鹿児島交通の鹿屋発~大泊経由~外ノ浦行を挙げる。
大隅半島の南端を走り抜けるバス路線であり、途中の大泊周辺は、九州最南端の集落でもある。
「バスに乗ること自体は、単なる移動手段にとどまらず、究極のマイクロツーリズムであり、日常旅となり、ローカル旅に他ならない。見知らぬバス停で降りるとワクワクするものがあり、一見何でもないバス停と周辺も視点を変えれば、新たな観光資源になり得る」との持論を説く沖浜さんは、10年後を目標に『福岡バス停図録』の続編づくりへハンドルを切っている。
そして、沖浜さんは、「新たなゴール(終点)を設定したことで私自身のモチベーションも高まった」と、自らのアクセルを踏み込む。
今後10年間で福岡のバス路線、バス停が、どのような変貌を遂げていくのか。
バス路線探検家は、〝歴史の生き証人〟として、バス路緯やバス停のアーカイブを日々、収集し続ける。
DATA
名 称:バス路線探検家の会
発 足:2017年11月
代表者:主宰 沖浜貴彦
事 業:バス路線およびバス停などの探検・記録
URL:https://nishitetsu.yoka-yoka.jp/
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