【人物図鑑】図書館を舞台に異色の調査マンが、 〝ワクワクする九州づくり〟に挑む

公益財団法人九州経済調査協会 事業開発部長
兼BIZCOLI館長  
岡野秀之


九州経済調査協会 BIZCOLI館長
岡野秀之

【おかの・ひでゆき】
横浜市生まれ・北九州市育ち、1973年1月15日生、福岡教育大学教育学部卒~九州大学大学院比較社会文化研究科修了。1997年4月九州経済調査協会に入社、研究員、研究主査、主任研究員、総務企画部次長、調査研究部長などを経て、2018年4月に事業開発部長兼BIZCOLI館長に就任。主な研究分野は地域産業論、産業政策論、産業配置論。

【3Points of Key Person】

◎新たなビジネスやコトが起きる場・BIZCOLIの館長を務める
◎シンクタンクでの調査・研究に加え、プロジェクトを立ち上げ
◎九州がワクワクする仕掛けづくりで次代人材に活躍の場を

図書館の枠を超えた、会員制ビジネスライブラリー

福岡におけるビジネス拠点エリアの一つである渡辺通一丁目交差点。その一角に建つ電気ビル共創館の3階フロアにあるのが、会員制図書館『ビジネス・コミュニケーション・ライブラリ-』(BIZCOLI)だ。

館内に一歩足を踏み入れると、書籍がオブジェとして差し込まれた、火山灰の焼成レンガタイルの壁面が目に入る。そして、間伐した桧材を用いた突板やアルミ素材のボード、和紙のLED照明などの伝統建材・先進建材や無機質素材などを用いた独特の空間デザインが知的な雰囲気を醸し出す。

「BIZCOLIとは、異分野の企業やヒトが出会って、ネットワークしていくことで新たなビジネスやイノベーションなどのコトが起きる〝場〟の一つ。ヒトや企業が地域で活動しやすくための〝触媒〟である」と解説する岡野秀之・公益財団法人九州経済調査協会事業開発部長は2018年4月、二代目館長に就任した。

 クラシック音楽やジャズなどのBGMが静かに流れる館内のラウンジにおいては、利用者がオリジナルデザインのアームチェアでくつろぎながら、ゆったりと読書や会話、思索などを楽しむ姿を目にすることができる。

「ジャンルや分野、業種・業態、大企業・中小企業、経営者・担当者などのポジションにも関係なく、多彩な方々にBIZCOLIへ来館いただいている。彼らにとって次の一歩を踏み出すことへの後押しをできたら、本当に嬉しい」と笑顔をみせる岡野館長の設立準備の際に描いたビジョンは、〝九州における知の集積・交流・創造の場〟、もっと大胆に言えば〝九州の梁山泊〟と雄大だった。

地域の産業創出もサポートする行動派調査マン

《カタチになるようなモノをつくり上げたい》《都市開発などのプランニングをやってみたい》との思い描いた高校時代、岡野青年は建築家を志していた。しかし、高校3年生の夏に建築学科に必須の物理の履修をしていないことに気づき、急きょ、比較的近い分野の研究ができる地理学を選んだ。次世代を担う子どもたちに教えることにも興味があったので、教育学部の中学校教員養成課程の地理専攻へ進んだ。

そして、大学院で選んだのが経済地理学だった。指導教官だった山﨑朗・九州大学教授(現中央大学教授)から産業調査を手伝うアルバイト先として紹介されたのが九州経済調査協会(九経調)であり、これがシンクタンクとの出会いとなった。

「大学・大学院においては、分からないことを分かるようになる研究そのものが面白かった。これに対して、九経調では、社会を変えることへの働きかけをしている点が新鮮であり、何よりも魅力的に映った」。岡野館長は当時、九経調での上司だった城戸宏史・北九州市立大学大学院教授の指導も受けながら、地域産業論をテーマとした修士論文を書き上げて、1997年に入社した。

入社後、調査・研究・政策立案などを手掛けるなかで出会ったのが、故友景肇・福岡大学工学部電子情報工学科教授だった。友景教授が社会を良くしていくために企業や関係者との深い接点を持ちながら研究や実践をするという姿勢に大きな感銘を受けた。そして、岡野館長が、友景教授ら半導体研究者をはじめ企業関係者、行政担当者らと共に立ち上げたのが、MAP(半導体実装国際ワークショップ)だった。

MAPでは、国内外から話題の企業家やエンジニアを招いた技術ワークショップや展示商談会、Webを用いた情報の受発信、アジアの半導体関連企業のデータベース提供、経済視察団の派遣・受入などに取り組んだ。その取り組みの根底には、「事業化フェーズにある世界最先端の技術やキーマンとフランクに繋がる場をつくることで、九州の技術力を持った中小企業がもっと活躍できる場を提供していくことにつながる」との思いがあった。2006年、MAPは、さらなる国際ビジネスを促進する任意団体として、アジア半導体機構へと発展した。

その一方、研究・開発の事業化では苦い経験もある。有機ELパネルの開発製造のベンチャー企業の誘致と創業支援に関わった際、資金調達を成功させ、工場の設立から商品の出荷・販売という事業化にまでこぎつけたものの、他社との競争や市場での受容フェーズを越えられずに廃業に至ったこともあった。

「これらの失敗は大きな教訓になった。一歩間違うと、プロジェクトに関わるヒトの人生そのものを変えてしまいかねないので、その点を十分に配慮しつつ政策立案やプロジェクト支援をしている」とする岡野館長は、現在、旧福岡県立朝倉農業高等学校跡地暫定活用事業として誕生した株式会社アグリガーデンスクール&アカデミー 福岡・朝倉校のプロジェクトにも関わっており、これまでの精神に加えて、以前の教訓が生かす。

九州がワクワクする仕掛けや場づくりに挑む

「九州がワクワクする、より良い仕掛けづくりをはじめ、次代を担うヒトたちが今後活躍できるための場づくりやチャンスづくりもサポートしていきたい」と、岡野館長は新たな挑戦に意欲をみせる。

「新しいコトだから、うまくいかないケースも多いものの、新しいコトは面白い。そして、自分の感性を信じて、自分が面白い、楽しい、ワクワクすると感じるコトを積極的に応援していきたい」という。

既存の仕組みやルールを変えていくには、膨大なエネルギーや時間を必要とするのも事実だ。異色のキャリアを歩んできた調査マンである岡野館長は、自らの経験をもとに「熱量や思いが無いと、モノゴトは動かない」と自戒する。

ワクワクするようなコトを一緒につくり出していきたいので、新しいことに前向きにチャレンジしている方は、ぜひ一度BIZCOLIに足を運んでいただき、活用してほしい」とのメッセージを発信する。

DATA

名 称:公益財団法人九州経済調査協会 BIZCOLI
住 所:福岡市中央区渡辺通2-1-82 電気ビル共創館3F
創 立:1946年10月25日
開 館:2012年4月
代表者:館長 岡野秀之
事  業:図書館運営、イベントや企画展示の実施、講演会・セミナー開催、機関誌『九州経済調査月報』の編集・発行
URL:http://www.bizcoli.jp/

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