【人物図鑑】SDGsは現代版〝本地垂迹〟、 仏教界ベンチャーのDNAで社会課題に挑む

【画像】本門仏立宗 長松山 光薫寺 住職 
SDGsおてらネットワーク 副代表 小林信翠(要慈) 

本門仏立宗 長松山 光薫寺 住職
SDGsおてらネットワーク 副代表

小林信翠(要慈) 

【画像】本門仏立宗 長松山 光薫寺 住職 
SDGsおてらネットワーク 副代表 小林信翠(要慈) 
本門仏立宗 長松山 光薫寺 住職
SDGsおてらネットワーク 副代表
小林信翠(要慈) 

【こばやし・しんすい(ようじ)】
1971年8月23日生、福岡市出身。久留米大学附設高校卒~筑波大学第二学群人間学類心理学専攻卒~横浜国立大学大学院教育学研究科教育実践専攻特別支援教育・臨床心理学コース修了。1995年に建国寺(名古屋市)において得度した。妙深寺(横浜市)で教務兼学生を務めた後、本山・宥清寺(京都市)にて仏立教育専門学校を卒業。建国寺で教務を務めた後、2004年5月光薫寺古賀別院の担当に就く。2008年、光薫寺副住職を経て、2015年7月に光薫寺第五代住職となる。2017年9月に発足したSDGsおてらネットワークの副代表。座右の銘は小林家の家訓である「至誠、仏天に通ず」、趣味はマラソン。

【3Points of Key Person】

◎SDGsを学ぶ僧侶グループの副代表を務める本門仏立宗光薫寺の住職
◎地域の壁や宗派の枠を超えて交流・研鑽していく
◎ソーシャルキャピタルである寺院の利活用を訴求する

SDGsで新境地を切り拓く僧侶グループの幹部

【画像】
本門仏立宗 長松山 光薫寺 住職 
SDGsおてらネットワーク 副代表 小林信翠(要慈) 

昨今、話題を集めるSDGsとは、貧困・飢餓、不衛生・不健康、恐怖・暴力、不正・不信など世界中で直面している17の課題を解決していくために国連で採択された開発目標であり、「誰一人取り残さない」ことを理念とする。
福岡市内における桜の名所の一つである山王公園に隣接する、本門仏立宗 長松山 光薫寺で2020年1月に開催した『仏教×SDGs de 地方創生セミナー』には九州をはじめ関東・関西・四国の各地から70名あまりの僧侶と一般参加者が集まった。
〝お坊さんとSDGs〟という一見、奇異に思える組み合わせだが、主催したSDGsおてらネットワークの副代表である、小林信翠・光薫寺住職は、「SDGsは、仏教徒こそが率先して取り組むべき社会活動」「SDGsの17項目であるパートナップシップにおいて、お寺が持つコンテンツや意識・知識、学びの場としての機能などの親和性は高い」と、にこやかに語る。

光薫寺は、戦後焼け野原だった博多の地において中国大陸から引き揚げてきた小林住職の祖父が信者4人でスタートした。
宗門である本門仏立宗は日蓮を宗祖とする法華宗において江戸末期に仏立講という在家集団が独立した、檀家制度に拠らない宗派である。
日本を代表する宗教哲学者だった故石津照璽氏は「仏立宗は新宗教の先駆けである」と位置付けていた経緯もあり、いわば〝仏教界のベンチャー〟としてのDNAを光薫寺も今日、受け継いでいるといえる。
「葬儀や法事など亡くなった方を大切にすることはもちろん、様々な祈願をはじめ悩み相談や子育て相談など、信者へのケアに力を入れている」として、境内において地域の子ども向け行事としての寺子屋やこどもまつりを執り行い、同じく大人向けの催しとして公開講演会(大人の寺子屋)や高齢者向けの体操教室、『100万人のクラシックライブ』などを開催している。

お寺に求められる役割は地域コミュニティ再建

【画像】
本門仏立宗 長松山 光薫寺 住職 
SDGsおてらネットワーク 副代表 小林信翠(要慈) 

住職の家系に生まれて4代目となる小林住職は、医者志望だった前住職の父に幼少期から「将来、医者か弁護士になれ」と言われて育った。
物心ついた頃から境内で身寄りのない子どもや行き場の人たちを受け入れていたこともあって、精神障害者や生活に困窮する人も身近な存在だった小林住職は高校時代、新たに誕生した臨床心理士という仕事に興味を持つ。そして、大学・大学院で臨床心理学を専攻した小林住職は、横浜市の保健所では子ども家庭支援センター相談員も経験した。
大学時代の先輩からの声掛けで教育相談所での心理職として就職するという選択肢もあったが、叔父が住職を務める建国寺(名古屋市)に赴いたのが転機となって得度。そして、建国寺で教務を4年間勤めた後、実家の光薫寺へ戻った。

 2015年7月に父の跡を継いで光薫寺住職となって、「せっかく今ある物を生かして、時代に合ったことをやっていきたい」と考えていた小林住職は、超宗派ウェブサイト『彼岸寺』を運営する松本紹圭氏が塾長を務める『未来の住職塾』の門を叩く。
「これからの仏教は宗派仏教でなく、地域仏教である」とする松本塾長の考え方は、「お寺の敷居は低く、間口は広く、奥行きは深く。地域の《鎮守の森》であるべき」とする先代住職である父の考えと一致し大いに共感した。
そして、「地域に開かれて、社会に貢献していくお寺」へとさらに舵を切っていく。

地域内に限らず、仏教界内においても「宗派を超えた学び合いは大きな刺激になる。ちょうど海外旅行へ出て、日本の良さを体感するのと同じで、自分自身のモチベーションにもつながっていく」と感じた小林住職は、宗派を超えて様々な研修する場を提供してきた。
先述のSDGsに関するセミナーをはじめ、建築家やまちづくりに携わる人で作る『風景デザイン研究会』のワークショップ、僧侶兼看護師の玉置妙憂氏を招いての『養老指南塾』などに加えて、『僧侶のためのグリーフ・ケア講座』も開催した。
また、『寺院のためのクラウドファンディング講座』の会場として提供し、自らも参加した小林住職は、「宗派を超えて知識や意識を共有することを通じて、仏教界全体の連帯感につながればと思っている」と語る。

お寺は地域のソーシャルキャピタル、「もっと頼って」

【画像】本門仏立宗 長松山 光薫寺 住職 
SDGsおてらネットワーク 副代表 小林信翠(要慈) 

文部科学省の『令和元年度宗教統計調査』によると、全国に7万5634寺院がある。
お寺は大きく3つに分けて、一つは鎮護国家を目的とした官製のお寺、2つ目は文化財的な価値があり観光のためのお寺、3つ目はいわゆる市井のお寺が全体の95%を占める中、これからますます困難な状況になっていくとみる小林住職は、「地域の方々と一緒になって何が問題・課題を考え、お寺としてどのようにカタチで取り組めるのかを考えていく必要がある」と考える。

光薫寺の場合、校区住民の実に96%がマンション・アパートなどの集合住宅に居住しており、「今後は孤独や孤立がますます社会課題になっていくので、みんなで一緒にコミュニティをつくっていくことが大事である。人と人という点をつないで線として、そして面にしていくことが寺院の役割である」と小林住職は心に刻む。
「仏教において教えと救いは一体になっており、SDGsの《誰一人も取り残さない》という姿勢は仏教とも相通じる。お寺には時間や空間、人的リソースなどを備えたソーシャルキャピタルといえるので、もっとお寺を利活用してほしい」とする小林住職は「南無妙法蓮華経」を唱えながら、日々まい進し続ける。

DATA

名 称:本門仏立宗 長松山 光薫寺
住 所:福岡市博多区山王1-11-11
創 立:1948年
代表者:住職 小林信翠
事 業:寺院
URLhttp://hbs-cokunji.or.jp/

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