【人物図鑑】〝伝統文化✕デジタル化〟で魅力や可能性が海外へ・未来へ広がる

【画像】一般社団法人伝統文化デジタル協議会 代表 平井みどり

一般社団法人伝統文化デジタル協議会
代表
平井みどり

【画像】一般社団法人伝統文化デジタル協議会 代表 平井みどり
一般社団法人伝統文化デジタル協議会
代表
平井みどり

【ひらい・みどり】
1973年3月21日生、福岡市出身、西南女学院短期大学卒。1993年4月福岡市役所に入庁、総務局や(公財)九州先端科学技術研究所 等を経て、2014年4月から経済観光文化局内の中小企業振興部において、伝統産業の振興を手掛ける。伝統産業振興係長に就任。2019年3月福岡市役所を退職。同年5月23日に一般社団法人伝統文化デジタル協議会を設立して、代表に就任。

【3Points of Key Person】

伝統文化のデジタル化やDX化に取り組む一般社団法人
◎ 福岡市役所OG、在職時に伝統産業振興を担当して自ら起業
◎〝デジタルの力〟による課題解決に取り組んでいく

伝統文化のデジタル化・DX化に取り組む

【画像】一般社団法人伝統文化デジタル協議会 代表 平井みどり

博多織、博多人形、博多曲物、博多独楽、博多鋏、博多張子……。2000年余りの歴史をもつ福岡・博多は、伝統的工芸品をはじめとする数多くの伝統文化に恵まれた地域である。
日本政策投資銀行が2018年7月に発表した『地域伝統ものづくり産業の活性化調査』によると、伝統的工芸品の生産額のピークは、1983年の5410億円だった。
その後、人口構造の変化や賃金の伸び悩みによる需要低下、大規模小売店の拡大をはじめとする商業環境の変化などによって、2015年にはピーク時の1/5以下となる1020億円まで落ち込んでいる。

「《デジタル・トランスフォーメーション(DX)で日本の伝統文化を未来と世界へ》を合言葉に、令和がスタートした2019年5月に誕生した」
一般社団法人伝統文化デジタル協議会の平井みどり代表は、博多織の帯をしめた着物姿で語る。
最近、よく耳にするDXとは、スウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念だ。
「日々やっていることや仕組みを少し変えるだけで楽になり、楽しくなる。〝デジタルの力〟によって、仕事や生活を楽にしていきながら、余暇も生み出す一方、伝統工芸の職人や作家として〝つくる〟ことに没頭できる環境をDXは提供できる」と、平井代表は考える。

長年培われてきた伝統文化について、同協議会はDXを前提とした交流事業、広報事業、販売サポート事業、アワード事業、研修事業、会員相談事業を手掛ける。
発足以来、『伝統文化のデジタル・トランスフォーメーション』『令和の時流予測』と題した講演会、インバウンドを想定したそうめん流し大会、小石原焼・有田焼や博多織などの工房見学会を相次いで開催し、一部は事業化へ動き出している。
「私の役割は、これまでの経験やネットワークを生かしながら、現場と行政や社会との間で通訳や翻訳をしながら、現場の声を伝えていくことだ」と考える平井代表自身は、意外にも自他共に認める〝アナログ人間〟だとか。

コロナ禍下、演奏機会を失った筑前琵琶保存会とのタイアップによるオンライン演奏では、協賛企業の登場に加えて〝デジタルの力〟で新しい客層へのアプローチも可能にした。
また、着物姿や浴衣姿で各地の魅力を紹介することでPRしていく浴衣コンテストは、企画立案~参加者募集~審査~表彰までの一連の流れをオンライン化で完結した結果、誰とも顔を合わせることなく、実現でている。
「デジタル化することで時間や場所、移動面での制約が無くなった」「伝統文化の関係者もオンラインイベントが意外と手軽にできると実感したことが大きかった」と、平井代表は声を弾ませる。

元市職員が伝統産業の振興を目的に協議会を発足  

元市職員が伝統産業の振興を目的に協議会を発足

子どもの頃から着物を着るのが好きだった。母もよく着物を着ており、学校の授業参観では、母の着物姿を誇りに思っていた」と目を細める平井代表は、もともと福岡市役所の職員だった。
1993年入庁組の平井代表は、総務事務や保健所業務、区役所の祭り・文化振興業務などを担当して2014年から5年間、伝統産業の振興を手掛けた。

「法律的には、伝統産業保護の色合いが強い中、単に守るのでなく、産業として振興させて自立させていくべきだ」と考えた平井代表は2018年の博多織777周年事業に際して、現場へ飛び込んで関係者らと一緒に汗を流した。
その一方で平井代表は、「新しい取り組みをいろいろやってきたつもりだったのに、結局は単に売り場を変えただけや、見せ方を変えただけではないかというモヤモヤ感も抱いていた」と明かす。
業界関係者からの声掛けもあって当初、伝統産業振興係長を辞しての転身を決意したものの、肝心の話が水泡に帰す事態も発生した。退職だけが先行的に決定した状況下、友人・知人らと相談した平井代表は、伝統産業をデジタルの力で振興させていく一般社団法人を立ち上げることを自ら決断した。 

一連の活動に先立ち、福岡市アジア美術館で開催した協議会発足の記念式には、「市役所を途中で辞めたにもかかわらず、元上司や元同僚らが大勢駆けつけて来てくれて、本当に嬉しかった。心から有難いことだと感謝すると共に、いつか恩返しをしたいと心に決めた」。
発足以来、駆け抜けて来た平井代表は、「コロナ禍でオンラインが一気に普及した半面、伝統文化の現場ではオンライン対応で格差が生じている」「長年培ってきた職人の経験や勘をデジタル化することで可能性が広がる。変わることを躊躇している方たちの一歩を踏み出すサポートをしていきたい」と瞳を輝かせる。

〝デジタルの力〟で課題を解決し、身の丈を超える

【画像】一般社団法人伝統文化デジタル協議会 代表 平井みどり

発足時から実質一人で協議会を切り盛りしてきた平井代表はマンパワー不足という問題を抱えていたものの、「音声主体の招待制・会員制交流サービス『Clubhouse』を定期的に開催することで一挙に賛同者が増えて、〝デジタルの力〟で課題を解決できて、プロジェクト自体も進めやすくなる」と、笑顔をみせる。

アメリカで落語を英語で広めようとする人、シンガポールで和太鼓の普及に取り組む人、イギリスで日本酒を製造・販売する人……。
「世間一般的には知られていないけど、すごい人たちが大勢いる。このままの状態では、もったいないので、いろいろなカタチで力になっていきたい」と平井代表は、はつらつとした表情をみせる。

「私一人ができることはたかが知れているが、デジタル化によって、身の丈を超えることをできる」ことを確信する平井代表は、「将来的にオールジャパとしての取り組みになっていくことで大きな力となって、世界へアピールしていくことができる。協議会としても、いろいろなコトを試みており、興味のある方には、Webサイトにもアクセスしてほしい」。
「一つのことを継続して取り組んでいる人を尊敬している」と、ほほ笑みを絶やさない平井代表にとっての好きな言葉は、「笑う門には福来たる」だ。

DATA

名 称:一般社団法人伝統文化デジタル協議会
住 所:福岡市中央区大名2-6−11 Fukuoka Growth Next内
創 業:2019年5月23日
代表者:代表 平井みどり
事 業:交流事業、広報事業、販売サポート事業、アワード事業、研修事業、会員相談事
URLhttps://tcdc.jp/

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