【人物図鑑】創業100年・東証1部メーカーでのオープンイノベーションに奮闘する

【画像】株式会社正興電機製作所 オープンイノベーション室長 山本公平

株式会社正興電機製作所
オープンイノベーション室長
山本公平

株式会社正興電機製作所
オープンイノベーション室長
山本公平

【やまもと・こうへい】
1964年7月生まれ、佐賀県鹿島市出身、福岡県立春日高校卒~九州大学教育学部卒。大卒後に自動車部品メーカーの工場に勤務した後、1989年福岡市役所に入庁。教育行政を担当した後、福岡アジア美術館の立ち上げを手掛け、アジアマンス担当、福岡アジア都市研究所研究員、アジアフォーカス・福岡国際映画祭担当、福岡貿易会事務局長などを歴任。2018年8月エストニアのデータ連携技術を展開するグローバルスタートアップ企業の福岡支社長に転じる。2019年9月株式会社正興電機製作所に入社し、オープンイノベーション室長に就任して、新規事業の立ち上げやオープンイノベーションに取り組む。趣味は「ダラダラしたり、役に立たないことをグダグダ話すことや、観もしない大型テレビを買ったり、聴きもしないオーディオ機器をそろえること。あと読みもしない本を借りること」(本人談)。

【3Points of Key Person】

東証一部上場の地元メーカーでオープンイノベーション室長に就任
◎ 民間経験に加えて福岡市役所でアートや映画、貿易などの国際畑を歩む
◎ オープンイノベーションやDXを通じて新たな文化創造に挑む

創業百年企業でオープンイノベーションを仕掛ける

【画像】株式会社正興電機製作所 オープンイノベーション室長 山本公平

いま世界的な潮流として、大手・中堅企業が製品開発や技術開発において、新興勢力であるスタートアップ企業の技術や知見を取り込むことで自前主義からの脱却を図ろうとしている。
オープンイノベーションと呼ばれる一連の動向は2003年、ハーバード大学経営大学院のヘンリー・チェスブロウ教授によって概念として提唱された。

「従来、自社の保有技術で新事業を立ち上げることが多かったのに対し、今後は社会との連携を深めて、課題解決型のイノベーションにも力を入れていく」とする株式会社正興電機製作所は2019年9月、オープンイノベーション室を開設した。
「次の事業領域になる新たなビジネスドメインに向けたタネをまきながら、従来と異なる分野や手法を提案することで新規の市場や顧客を開拓していく」と、同社の山本公平オープンイノベーション室長は、自らの事業目的について語る。

1921年に創業した業歴100年の同社は、電力制御システムや配電設備、水処理設備向け制御システムを手掛ける東証一部上場企業だ。近年は、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTを活用した電力制御操作支援システムや人工知能(AI)を用いた健康管理システムなども商品化している。
「日本のインフラ企業は、日本経済の発展と共に成長してきたが、今後は何もしなければ、人口の減少に応じて衰退していくので、新たなステップに向けて、いろいろ挑戦している」と、山本室長は意欲的だ。

 近年よく耳にする言葉の一つが、デジタル技術で業務やビジネスを変革していくデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。
「DXの推進は日本の課題であり、当社も含めて日本企業はこの分野で遅れている。これまで構築・維持してきたシステム自体がレガシーとなり、DXの足かせになっている」と、山本室長は認識する。
日本におけるDXの現状を検討した経産省のデジタルトランスフォーメーション研究会は2018年9月、企業の老朽化した業務システムがDXの足かせとなって2025年以降、毎年12兆円の経済的損失を発生させるという『2025年の崖』を指摘した。

「これまで構築してきたレガシーを崩しても新しいコトに取り組むべきだが、現場の強い会社において、その文化を変えるのは極めて難しい。現場の方々が自ら動いて頂ける方法を、手探りしながら進めている。現在は、若手中堅社員らと一緒にDXを活用した新しい働き方や、仕事の進め方などを通じて内側から変えていくことに挑んでいる」とする山本室長は2020年3月、社内組織を横断する形でAI・DXの実行チームを立ち上げた。グローバルAI企業で経験を積んだエンジニアで元同僚のウッディン・メスバ氏が、チームの指導に当たる。
同年12月開催の第1回九州デジタルトランスフォーメーション研究会WEBセミナーに登壇した山本室長とウッディン氏は、「SEIKO-TeamAI/DXの野望~苦悩する地方企業DX化の現実~」の演題で活動報告を行った。

市役所やスタートアップ勤務を経て現職に就任

【画像】株式会社正興電機製作所 オープンイノベーション室長 山本公平

多くの人たちにとって楽しく、楽になるような仕事を拡大させたい。〝楽しく稼げる〟ことが大事であり、面白いことを楽しそうにやっていると、前向きな人が集まって、仕事もどんどん進んでいくはず」と、柔和な表情をみせる山本室長は大卒後、大手部品メーカーの工場に勤務した。
その後、福岡市役所に転じた山本室長は最初、教育行政を担当した後、福岡アジア美術館の立ち上げを手掛けた。「国内外のアーティストらと一緒に仕事をしてみて、彼らの自由でクリエイティブな発想に直に接し、共に作品制作に関わり《ルールや既成概念にとらわれない、表現の世界の無限の可能性》に感化された」と、山本室長は振り返る。
出向した福岡アジア都市研究所では、世界中の都市を巡りさまざまな国際都市政策の事例研究を行うなどグローバルな知見を深めた。
そして、アジアフォーカス・福岡国際映画祭事務局長を務めるなど主に、行政の国際部門を担当した山本室長は、「これまでの仕事柄、映画人、アーティスト、起業家やグローバル企業経営者ら、世界中の様々な方々と知り合うことができた。個性的で変人も多いが、私にとっては、面白くて素晴らしく魅力的な人物が多い」と目を細める。

さらに正興電機製作所の土屋会長がトップを務める、福岡市の国際経済関連団体である福岡貿易会において、グローバルビジネス分野でも経験を積んだ山本室長だが、市役所での安定的な仕事から、一気にかけ離れた世界に飛び込んだ。その行先は、グローバルなデータ連携プラットフォームであるエストニアのX-Roadを日本向けにローカライズするスタートアップ企業だった。
「新天地となったスタートアップ業界は、キラキラと刺激的だったが、独自の難しさや苦労も味わった。さらに福岡支社閉鎖に伴い、予定外の東京勤務となるなど、目まぐるしくも楽しく、得難い経験を重ねた」(山本室長)。
そこでグローバルなDXビジネスでの経験を積んで、福岡へ戻って来たタイミングでたどり着いたのが、スタートアップ企業などと協業を推進するオープンイノベーションの仕事だった。
「スタートアップ連携は簡単ではない。海外企業との協業はさらに厳しく、グローバル化が遅れている日本ではハードルが高い。投資しても見返りは期待できないなどの現実もあり、新しいことに挑むのは若者、よそ者、ばか者だけかもしれない。私は若くないので社内の若者の力を借りているが」と、山本室長は腹をくくって自らの使命に取り組む。

オープンイノベーション、DXで新たな文化を創造

【画像】株式会社正興電機製作所 オープンイノベーション室長 山本公平

オープンイノベーションという響きには、ハイテクやデジタルなどのイメージを抱きやすいのに対して山本室長は、「協業できる企業かどうかについては、実際に会ってじっくり会話をし、人間的な感性で判断していく。狙っていってもうまくいかず、むしろ偶然の出会いの方が重要になるケースも多い。そして振り返ってみれば、ジタバタしていると、好機はいつの間にか、向こうから自然に訪れる気がする」と、経験値をもとに自らのスタンスを明かす。

AI/DXなどでデジタル技術に取り組むが「人間にとって重要なのはデジタルではなく、生き生きと誇りを持てる文化であり、人と文化こそが最重要」とする山本室長は、「例えば建物も都市の文化の現れであり、街並みや景観に特徴のあるまちには面白い魅力的な人物が集まって来る」と考えている。
「魅力的な都市である福岡において、価値ある文化をみんなで一緒につくっていきたい」と、意欲をみせる山本室長は、オープンイノベーションと共に“楽しいことを実現していくためのDX“の推進で新たな文化創造にチャレンジし続ける。

DATA

名 称:株式会社正興電機製作所
住 所:福岡市博多区東光2-7-25
創 業:1921年5月25日
代表者:代表取締役会長 土屋直知、代表取締役社長 添田英俊
事 業:電力制御システムや配電設備、水処理設備向け制御システムから太陽光・蓄電池、そしてAI/DX・ロボットなども手がける
URLhttps://www.seiko-denki.co.jp/

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