【人物図鑑】着物を再生したハンドメイド素材・キモノヤーンで〝未来〟を編み出す
株式会社リクラ
プランナー
藤枝瀬里子
【ふじえだ・せりこ】
1979年7月1日生、愛媛県出身、東京女子大学卒。リクルートグループの株式会社リクルートメディアコミュニケーションズに入社し、結婚情報誌『ゼクシィ』を担当。2009年に観光・集客事業の再生を手掛けるイデアパートナーズ株式会社に転じて、九州各地の地域活性化のプランニングを手掛ける。2010年から同社関連のNPO法人イデア九州・アジアにおいて、『バルウォーク福岡』や『屋台きっぷ』『FUKUOKA体験バスTICKET』などのイベントや商品を企画・実施。さらにジビエ料理専門店の立ち上げなどの新規事業も手掛ける。2018年4月、三和物産株式会社に入社。同月、事業構想大学院大学に福岡校一期生として入学。同年10月に同社の社内新規事業として、キモノヤーンの製造・販売を手掛ける株式会社リクラの設立に伴って、プランナーに就任。2020年3月事業構想大学院大学を修了、MPD(事業構想修士)を取得。趣味は編み物と読書。
【3Points of Key Person】
◎着物からの再生ハンドメイド素材・キモノヤーンの製造・販売を手掛ける
◎雑誌『ゼクシィ』を振り出しに観光・集客の再生事業を手掛ける
◎捨てるモノを素敵なモノに変身させるアップサイクルのひな型をつくる
着物を再生したハンドメイド素材『キモノヤーン』
「大事にしていた着物でも実はリサイクルできないものも多いため、着る以外の新しい価値を与えてアップサイクルしたのが、日本初の『キモノヤーン』になった」
キモノヤーンの考案者であり、株式会社リクラでプランナーを務める藤枝瀬里子さんは明かす。着物を細かく裂いてリボン状にしたキモノヤーンは、バッグや小物を手づくりができる素材としてハンドメイド愛好家から注目を集める。
もともと『ヤーン』(yarn)とは英語で紡いだ糸を意味し、布を細長く裂いて作った編み糸も指す。オランダで生まれた、Tシャツの端材を裁断して作った『Tシャツヤーン』は、バッグや小物などの編み物づくりで世界的な人気を博した。
「海外から来られた方は日本の着物に興味を持っており、中でも風鈴との組み合わせたキモノヤーンは好評だった」と、藤枝さんは解説する。藤枝さんは現代美術の国際芸術祭『瀬戸内国際芸術祭』が開催された2019年7月、直島の古民家ギャラリーを借りてキモノヤーンの展示会を開催した。
この他にも六本松蔦屋書店での展示・販売会や福岡テンジン大学でのワークショップなどを実施してきた。さらに国内最大級のハンドメイド雑貨・クラフト通販サイト『minne』での販売に加えて、2020年6月から手芸・ハンドメイドのコンテンツ企業・日本ヴォーグ社からキット販売も始めた。
「これまで無かった新しいモノなので、認知度に課題がある。その半面、キモノヤーンを通じて、いろいろな人たちに着物を身近に感じてもらえたことは嬉しい」と、藤枝さんはほほ笑む。
もっとも、着物の洗浄をはじめ、ほどいて縫い合わせて反物にし直し、ほつれないように加工した上で裁断して作るキモノヤーンの工程は複雑な上、ほとんどが手作業だ。当初は作業効率やコスト面で課題を抱えていたものの、2020年3月頃には課題解決のめどが付き、一定の生産の見通しが立ったという。
趣味が高じ、大学院で事業を構想して会社設立
大学を卒業した藤枝さんは最初、リクルートグループで結婚情報誌『ゼクシィ』を担当した。
意外にも、「小さい頃から人見知りが激しかったので、専業主婦志望だった」という藤枝さんは、ゼクシィでの取材に徹底した事前準備で臨んだ。その姿をみた上司からの「人見知りだから、それを克服しようとする努力は素晴らしい」という言葉が心の支えになった。
その後、観光・集客事業の再生を手掛けるイデアパートナーズ株式会社に転じた。同社関連のNPO法人で《福岡のまちを元気にする》をコンセプトに『バルウォーク福岡』『屋台きっぷ』『FUKUOKA体験バスTICKET』などのイベントや商品を企画・実施した。さらにジビエ料理店を立ち上げる新規事業も手掛けた。
中でも初めて手掛けた企画だったバルウォークで、「西中洲の小路に参加者があふれている状況をみて、これまでの苦労がカタチになって完成した」ことを実感した。
イデアパートナーズに勤務後、フリーランスとして活動した藤枝さんが最初に構想したのは、OEMによる女性下着づくりだった。製造委託先として縫製を手掛ける工場を地元からアプローチを始めて域外へ広げると、意外にも北陸地区に多かった。
そして、金沢市に本社を置く葬祭用品メーカーの三和物産が「面白い」と名乗りを上げて2018年4月、藤枝さんは新規事業担当のプランナーとして入社し、福岡市・大橋の福岡オフィスに勤務する。
入社と同時に入学した事業構想大学院大学の講義でイノベーションの本質として科学技術と社会をつなぐ『シンセシス』という考え方に触れた。また、実家で趣味の裂き編みをした際の母親からの一言によって、着道楽だった祖母の着物を裂き編みしたことがキモノヤーン誕生につながった。
同年5月、キモノヤーンの構想を大学院に提出して高評価を得た。さらに会社に新規事業として提案したところ、同年10月にキモノヤーンを製造・販売する社内ベンチャーとして、株式会社リクラが誕生した。
「リクラは、捨てるモノを素敵なモノに変身させるリ・クラフトカンパニー」と、にこやかな表情をみせる藤枝さんは、「ゼクシィ時代から課題解決に取り組んできて、事業構想大学院大学で《自分で何をやりたいのか》《自分にとって何が大事なのか》など、自分と向き合う機会を得た。そして、キモノヤーンは私の好きなモノであり、やりたことでもあり、社会課題を解決していく取り組みにもなる」と、笑みを浮かべる。
アップサイクルのモデルづくりに取り組む
「誰かにとって要らないモノでも、別の人にとって必要なモノにしていくのがアップサイクル」と、藤枝さんは説く。日本アップサイクル協会によると、アップサイクルとは、「リサイクルやリユースとは異なり、もともとの形状や特徴などを活かしつつ、古くなったもの不要だと思うものを捨てずに新しいアイデアを加えることで別のモノに生まれ変わらせる、所謂〝ゴミを宝物に換える〟サステイナブルな考え方」だ。
アップサイクルでは通常、仕入れは安価になるものの、「輸送や保管、製造にコストを要することが共通の課題だ。これらの課題を解決して、アップサイクルが成り立つモデルをつくっていきたい」と、藤枝さんは前向きだ。
好きな言葉として、ココ・シャネルが語った「モードは変わってもスタイルは不変」を挙げる藤枝さんは、「流行をつくるのではなく、20年後・30年後も残る価値をつくっていきたい」と思い描く。
「コツコツやる編み物は性格的に向いている。そして、素材からイメージしてカタチにしていく編み物は新規事業と似た面がある。うまくいかない場合、いろいろやり直すことで完成していく」と語る藤枝さんは、〝課題解決〟というタテ糸と〝自己実現〟というヨコ糸で自分自身の〝未来〟を編んでいく。
DATA
名 称:株式会社リクラ
住 所:福岡支社:福岡市南区大橋1-1-5 第二ファミリービル2F(本社:金沢市広岡3-1−1)
設 立:2018年10月1日
代表者:代表取締役 西河誠人
事 業:生地や端切れのアップサイクル商品の企画・開発・販売など
URL:http://recra.jp/
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