【人物図鑑】地域の情熱たちと共に挑む、豊かな未来づくり
株式会社九州博報堂
代表取締役社長
江﨑信友
【えざき・のぶとも】
1964年5月11 日生、福岡県みやま市出身、青雲中学・高校卒~早稲田大学第一文学部卒。1989年4月株式会社博報堂に入社、営業局で食品メーカーなどを担当。その後人事部門へ異動。秘書室秘書役(会長付秘書役)を経て、人事局労務部長、人事部長、博報堂人事局長(兼)博報堂DYメディアパートナーズ人事局長(兼)博報堂DYホールディングス・グループ人事戦略局長を歴任。2019年7月博報堂九州地区事業統括(兼)西広取締役、2020年4月株式会社九州博報堂の設立にともなって代表取締役社長に就任。趣味は登山、スポーツ観戦。
【3Points of Key Person】
◎西広と博報堂九州支社との統合で誕生した九州博報堂の初代社長
◎実家はみやま市の造り酒屋、早大アメフト部卒で主に博報堂人事畑を歩む
◎九州各地の魅力を引き出し発信していくことで、地元九州の活性化を図る
二つの個性が融合した新会社の初代社長に就く
地元・九州で70年の歴史とネットワークを培ってきた「西広」と、生活者発想のクリエイティビティと世界的なネットワークをもつ「博報堂」の九州支社は2020年4月1日、株式会社九州博報堂として新たなスタートを切った。
「西広と博報堂九州支社は従来、得意先のすみ分けがうまくできており、今回、両社の強みを生かす形で一つになり、九州一円をネットワークする200名の〝粒違い人材〟を有する九州博報堂が誕生した」と、初代トップに就任した江﨑信友・九州博報堂代表取締役社長は、おおらかな表情をみせる。
2019年6月の西広の博報堂グループ入り発表のタイミングで、博報堂九州地区事業統括に就任するとともに西広取締役にも就いた。
そして、九州博報堂の設立にあたり、「地域の情熱たちと、未来をつくる」ことを企業パーパス(目的、存在意義)に掲げた。そのパーパスづくりでは、両社の社員約30人がまる2日間、新しい会社の果たすべき役割や将来像について徹底的に議論を重ねた。また、そのパーパスを実現するための行動のあり方を「クレド(行動指針)」として、《選ばれる個性を持とう》《変化することを楽しもう》《常にクリエイティブ発想と共に》……などの6項目にまとめ、全社員の行動の拠り所とした。
「コロナ禍は世の中の多くの価値観を打ち壊した。価値観が再構築される今、お得意先の事業のこれからを共に描き、新たな価値を創造していくためにも企業パーパスが大事だ」と、江﨑社長は考える。「もともと〝粒ぞろいよりも粒違い〟を尊重する企業文化がある。色々な価値観の人材がいるという個性の多様さは、対応力の高さにもつながっている」と前向きな姿勢を示す江﨑社長は、「人材の融合については、もともと異なった企業風土や社風があるので、二つの円を同心円に近づけていくより、むしろ二つの円が翼を広げるように、お互いリスペクトしながらそれぞれの個性を際立たせて円を大きくしていけばいい」との思いで企業経営の舵を取る。
実家は白秋ゆかりの酒蔵、早大アメフト部出身
江﨑社長自身にとっては今回、入社以来初の九州勤務となったものの、実家は福岡県みやま市にある菊美人酒造だ。
詩人・北原白秋の姉の嫁ぎ先でもある菊美人酒造は1735年(享保20)以来、300年近く酒造りを手掛けており、白秋自身も清酒『菊美人』を飲みながら、詩歌を詠んでいたといわれる。白秋の姉は曾祖母にあたる。
「私自身は挫折と失敗ばかりで病気もしたが、人生は決して捨てたものでなく、前向きにがんばっていれば、必ず良い方向に向かっていく」と振り返る江﨑社長は、小学校3年生から6年余り、足の病気で歩行にハンディキャップを背負った経験を持つ。
一浪して入学した早稲田大学ではアメリカンフットボール部に所属して、ヘルメットやプロテクターなどの防具を身にまとってフィールドを駆け巡った。就職活動においては、いろいろな仕事に挑戦できる会社として商社と広告会社の門をたたき、「社名の響きが好きだったことに加えて、会社の雰囲気も良かった」という理由で博報堂を就職先に決めた。
入社後の配属先である営業局では、食品メーカーなどを得意先として担当した。そして、会長秘書を務めた折に、企業の経営者には深い思考力と胆力が求められ、あわせて健康と運の強さも併せ持っていなければならないことを目の当たりにした。その後は、主に人事畑を歩んだ。
博報堂自体、ユニークな人材育成に取り組む会社でもある。
人材開発やキャリア形成の一環として開講する『博報堂大学』は社内にとどまらず、社外にも〝開かれた場〟であり、そのカリキュラム数は実に年間1100超にもおよぶ。
一方、社員の発想力誘発と心身の健康推進を目的にした、休耕田で社員が米づくりをする『はくほうファーム』では、開墾から田植え、草むしり、収穫までの農作業を研修の一環として社員が交代で担当する。
行きの貸切バス車内で無口で無表情だった社員も大自然の中で全員で汗を流し、寝食を共にする農作業を終えた帰りの車内は賑やかで、互いに打ち解け合うなど仲間との絆づくりの効果は絶大だ。
また、収穫した無農薬・無肥料栽培の『博報米』は社員食堂で提供され、さらに国内外の取引先への手土産としても活用されるなど評判も上々だ。「会社自体も〝生活者発想〟を掲げており、土に直接触れながら汗だくになって取り組む農作業とは相通じるものがある」と、江﨑社長は目を細める。
人事局時代、懲戒処分となる問題を起こした社員に対して、本人への事情聴取や関係部署へのヒアリング、委員会での処分決定などの業務を担当した江﨑社長は、厳正な処分の一方で、「人間誰しも失敗や間違いを犯してしまう。《罪を憎んで人を憎まず》であり、処分と同時に本人の再起の道を残しておくべき」と考えて、心を砕いた。
数年後、見事に再起して昇進を果たした本人と感涙の再会を果たしたこともあるという。
「生まれ育った九州に全力で恩返しする」
「九州博報堂は、〝人を育てる場〟だ」「面白い人材が集い、ここにある知見・クリエイティビティ・人的ネットワークなどあらゆるリソースを活かして地元・九州に還元していく」と意欲的な江﨑社長の根底には、「生まれ育った九州へ全力で恩返しをしたい」という情熱がある。
九州において、「必要なのは格差是正でなく、九州各地のヒトや文化、産業、農林水産資源、自然などを生かしながら、地域の魅力を引き上げていくことだ。その結果が九州全体の活性化につながっていく」と構想を練る。
「失敗は経験に。成功は謙虚な自信に」――。自らの信条を胸に刻む江﨑社長は、「魅力あふれる九州の〝愛される〟価値を日本、そして世界へ発信していき、多くの人たちの笑顔と幸せに貢献していきたい」と全力で挑戦し続ける。
DATA
名 称:株式会社九州博報堂
住 所:福岡市中央区天神 1-4-1 西日本新聞会館14階
設 立:2020年4月
代表者:代表取締役社長 江﨑信友
事 業:総合広告会社
URL:https://www.kyushu.hakuhodo.co.jp/
コメントを投稿するにはログインしてください。