【人物図鑑】睡眠学の大家が精神科医を〝心のかかりつけ医〟とする夢の実現に尽力

【学長】久留米大学 学長 内村直尚

久留米大学
学長
内村直尚

【学長】久留米大学 学長 内村直尚
久留米大学
学長
内村直尚

【うちむら・なおひさ】 
福岡県久留米市出身、1956年7月3日生、福岡県立明善高校卒~久留米大学医学部卒~久留米大学大学院医学研究科修了(医学博士)。1987年5月~1989年4月米国オレゴン健康科学大学に留学。帰国後、久留米大医学部神経精神医学講座の助手、講師、助教授を経て、2007年4月教授に就任。2011年4月~2013年3月久留米大学病院副病院長、2012年4月から同大学高次脳疾患研究所長、2013年4月同大医学部長・理事・評議員、2016年10月同大副学長、2020年1月同大学長に就任。著書に『昼寝(午睡)のススメ―15分間の午睡で頭も体もリフレッシュ―』(九州大学出版会)、『睡眠学』(朝倉書店)、『プライマリ・ケア医のための睡眠障害―スクリーニングと治療・連携―』(南山堂)、『不眠とストレス』(創元社)など。趣味はウォーキング。

【3Points of Key Person】

◎久留米大学の学長であり、主任教授も務め、睡眠の臨床医を担当する
◎実家は1800年続く神社で、かかりつけ医と精神科医の連携で自殺抑制
◎精神科医を〝心のかかりつけ医〟とし、日本精神医学界を夜明けへ導く

最多の病院経営者・診療所開設者を育む久留米大学

【学長】久留米大学 学長 内村直尚

「本学は地元からの協力を得て誕生した学校であり、教育・研究・社会貢献・臨床を通じて、地域社会への還元に努めている」と、久留米大学の内村直尚学長はにこやかに語り掛ける。
久留米大学の前身である九州医学専門学校は福岡県医師会の提唱を受け、久留米市や地元出身の実業家だった石橋徳次郎・正二郎兄弟らの支援によって1928年2月に設立した。2020年3月に医学部卒業生が1万人を突破している。
医療情報サイト『時事メディカル』を運営する時事通信社によると、日本の医学部で最多の病院経営者・診療所開設者を輩出しているのは久留米大学医学部だ。
日本医師会の第19代会長であり、世界医師会の第68代会長も務めた横倉義武・社会医療法人弘恵会・ヨコクラ病院理事長も卒業生の一人である。

 「本学には、医学部とともに商学部をはじめとする文系学部があり、医学部を持つ大学の特長を生かした文系と医学系との文医融合として、人間健康学部を新たに開設した」と解説する内村学長は、大学運営をはじめ、神経精神医学講座の主任教授として教育・研究に取り組み、精神科医としての臨床も手掛ける。
「同窓生の母校への思いが強く、大学病院と開業医との医療連携をはじめとする、いろいろな形での地域連携も取り組みやすい」と、内村学長は目を細める。

年間自殺者が3万人超だった2010年当時、内村学長は久留米市の自殺対策事業として『かかりつけ医うつ病ネットワーク』を立ち上げた。
そして、内科医をはじめとするかかりつけ医と精神科医が研修などで〝顔の見える〟信頼関係づくりに取り組んだ。
実は自殺者の4人中3人は何らかの精神疾患を持ち、その半数をうつ病を患う。自殺の〝水際作戦〟としてうつ病対策に取り組み、患者にとって最初の受診先であるかかりつけ医がうつの症状を発見した場合、精神科医に紹介していく仕組みだ。
かかりつけ医と精神科医の連携に精神保健福祉士も協力した早期発見の結果、自殺者を大幅に減らした医療連携は医療・行政関係者の間で『久留米方式』と呼ばれている。
うつの発症には借金や多重債務などの経済問題もあるため、福岡県司法書士会や福岡県弁護士会が無料相談会を開くなどの〝文医融合〟的な連携強化も進む。

1800年余続く神社の宮司となる、睡眠学の第一人者

【学長】久留米大学 学長 内村直尚

開学した翌1929年に誕生した神経精神医学講座の第5代目教授である内村学長の実家は1800年余り続く神社だ。
202年創建とされる御勢大靈石神社は仲哀天皇を祭神とする式内社で、神功皇后が亡くなった仲哀天皇の霊石としたという伝説の石を境内で祭っている。内村学長も神主免許を持ち、亡父の跡を継いで49代目に近く就任する予定だ。
「小さな神社であり、宮司を務めた父も県庁職員と兼業だったので、宮司就任後も医師の仕事を続けていく」とする内村学長は、「昔から神社は、地域の人たちがつながっていく上で大切な場所だった。《人の役に立ちたい》との思いで医師という職業を選び、体ではなく心を診る精神科医を専攻してみると、神社と精神科には、相通じる内省的な要素を秘めているように思える」と明かす。

内村学長が精神科医として、睡眠の臨床を担当する久留米大学は1981年に日本初の睡眠クリニックを開設するなど国内の睡眠研究を牽引してきた。
「人間の本能で唯一コントロールできないのは睡眠だ。精神疾患のほとんどは不眠などの睡眠疾患に関係しており、睡眠という観点から研究をしてきた」という内村学長によると、寝る間も惜しんで戦後復興に努めた日本人は世界で最も〝寝ない〟民族だ。
睡眠不足は体の不調を招きやすく、現代人が悩む生活習慣病や脳梗塞、心筋梗塞、うつ病も睡眠不足が大きな誘因と考えられている。また、睡眠不足によって、ガンの発生率や認知症になるリスクが高まり、健康寿命が短い傾向にある。

睡眠学研究の第一人者である内村学長にとっての転機は大学院時代、統合失調症の原因究明のために所属した生理学教室における研究体験だった。
「研究の厳しさが、私自身を大きく成長させてくれたと思う。ごまかしや手抜きが一切許されずに他人の2~3倍の努力が求められて、常に高いモチベーションを持っておく必要があった。イギリスのロマン主義詩人だったジョン・キーツが見出した、『ネガティブ・ケイパビリティ』という《答えの見つからない状況に耐えられる能力》が重要であり、挫折や困難が自分自身を成長させることを身をもって知った」と、内村学長は真摯な姿勢で語る。
大学院時代に統合失調症を引き起こす側坐核でのドーパミンD1・D2の受容体を世界で初めて電気生理学的に発見した内村学長は、その後のアメリカ留学でもうつ病に関係するセロトニン2の受容体を世界で初めて発見するという業績を上げた。

「精神科医は、〝心のかかりつけ医〟となる」

【学長】久留米大学 学長 内村直尚

アメリカ留学から帰国後、久留米大学医学部脳疾患研究所助手と神経精神医学講座を兼務した内村学長は、睡眠の研究を始めた。
精神科医を顧問に抱えることを社会的ステータスとするアメリカ社会に対して、日本では精神科医に対する偏見が強かった。
「〝睡眠の専門医〟とする精神科医の切り口は、精神科の敷居を下げて訪ねやすくできる。従来の精神科医のイメージを払しょくしていくことは、日本の精神医学界の〝夜明け〟をもたらすことにもつながる」と、内村学長は大志を語る。
多忙な中、内村学長は保育園・幼稚園での園児・父兄向け講演をはじめとする市民向け講演会にも睡眠などのテーマで講師を務めて、年間約70回登壇している。

良き習慣は才能を超える――。講演時に内村学長がよく説くのは、『1万時間の法則』だ。
「1日3時間努力すると1年間で1000時間になり、10年間続けると1万時間に上る。10年間・1万時間取り組めば、その道で一流になれる」とする内村学長は体のかかりつけ医に加えて、〝心のかかりつけ医〟の啓発に尽力する。 
「人生100年時代において、いろいろな悩みや困難を受け止められるのは精神科医であり、精神科医を介して各専門家らが協力して問題を解決していくことも可能だ。人生の最期の瞬間に自分で自分自身を褒められるように自らを信じて生きていくことが重要になってくる」と語る内村学長は目元を緩ませる。

DATA

名 称:学校法人久留米大学
住 所:福岡県久留米市旭町67番地
設 立:1928年2月
代表者:理事長 永田見生、学長 内村直尚
事 業:教育、研究、社会貢献、臨床
URLhttps://www.kurume-u.ac.jp/

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