【人物図鑑】地元福岡・博多の歴史や物語を和の調べで弾き語る筑前琵琶奏者

筑前琵琶保存会
会主
寺田蝶美

【てらだ・ちょうび】
福岡市出身、福岡女学院高校卒~青山学院大学日本文学科卒。4歳の頃から祖母・内田旭潮の影響で筑前琵琶を始める。嶺旭蝶師、青山旭子師に師事。NHK邦楽技能者育成会を修了。2014年に福岡文化連盟青木賞奨励賞を受賞。2017年9月、アクロス福岡で開催された福岡アジア文化賞授賞式において秋篠宮殿下同妃殿下の御前にて祝賀演奏。
【3Points of Key Person】
◎筑前琵琶の奏者であり、筑前琵琶保存会の3代目会主
◎ 4歳から筑前琵琶を始め、新作の作詞作曲も手掛ける
◎ 地元発祥の筑前琵琶を通じて地元を学び、伝えていく
筑前琵琶での古典や新作の演奏、後進育成に努める

琵琶は7~8世紀頃、シルクロードを経て中国大陸から日本へ伝来した弦楽器である。
その後日本独自の発展を続け、楽琵琶、平家琵琶、盲僧琵琶、唐琵琶、薩摩琵琶などの呼称があり分類される。
筑前盲僧琵琶を祖とする筑前琵琶は、薩摩琵琶や三味線の影響を受けながら、明治中頃に地元の福岡・博多で発祥した。
当時から筑前琵琶は、女性奏者が多くみられ、嫁入り前の習い事としても人気だったそうだ。
「筑前琵琶の弾き語りの舞台と、後進の育成に努めている」。凛とした表情で語る寺田蝶美さんは、筑前琵琶保存会の三代目会主、嶺青流師範、博多蝶美会を主宰する。
「福岡・博多や太宰府などの歴史や物語を多く取り入れ、筑前琵琶の魅力を広く伝えていきたい」と、声を弾ませる。
琵琶の弾き語りとして知られる『平家物語』を題材とした曲、『祇園精舎』『敦盛』『壇ノ浦』などの古典文学や歴史物語にとどまらず、『桧原桜』『令和大宰府梅歌』などの新作を自ら作詞・作曲する寺田さんは、筑前琵琶の〝シンガーソングライター〟ともいえる存在だ。
先代から受け継いでいる演奏曲を次世代に歌い継ぐ一方で「『元禄赤穂伝~吉良邸討ち入りの件』や『濡衣物語』『官兵衛ものがたり~有岡城』など歴史物を新たな切り口と言葉で創ることも楽しい」と語る。
コンサートや演奏会に加え、音楽祭、オープニングイベントへの出演、寺社等の慰霊祭や奉納演奏、更には企業や団体の記念パーティー・懇親会での祝宴演奏、講演活動など、寺田さんの活動の場は幅広い。
一方、後進の育成の重要性について考えていた寺田さんに、2021年冬からの体験教室による出会いがあった。
「当時、コロナ流行のためマスクが当たり前の時期だったが、小中学生を対象に『伝統文化子ども体験教室inふくおか』という事業があり、福岡教室、太宰府教室それぞれ10人の体験者を受け持たせていただいた。皆さん熱心でもっと琵琶に触れる機会があるべきだなと感じた。体験後も5人が筑前琵琶を継続してお稽古することになり現在まで熱心に頑張っている」と語る。
ほかに福岡教育大学にも出向き、音楽専攻の学生に筑前琵琶の体験を実施したり、母校に訪れて『平家物語』の理解を深める演奏会を行ったりしている。
毎年恒例の博多どんたく港まつりには、学生らを受け入れるとともに筑前琵琶の演奏で訪れることの多い寺社仏閣への参拝の機会も設けている。
異郷の地で自国の歴史や文化を知る大切さを学ぶ

「子どもの頃から筑前琵琶をやっていたからか、古典をはじめとする日本文学が大好きだった」という寺田さん。
多感な高校時代には、自らの進路について大いに悩んだ時期もあった。
そうした中、祖母からの「琵琶を続けてくれたら嬉しいけど、あなたが幸せに生きるために琵琶があるならいいね」という言葉に寺田さんは救われたと話す。
大学進学では、琵琶を教える音楽大学がなかったこともあり、青山学院大学日本文学科へ進学した。
そして在学中、NHK邦楽技能者育成会で学び、他の和楽器との合奏も経験した。
「バランス良く取り組んでいくことで生きていく道に幅を持たせることができた」と、寺田さんは目を細める。
「在京中は他の和楽器との合奏を経験したり、多くの出会いも得た。大学での学びは現在歌詞を書くことに生かされているし、教員免許の取得によって母校の国語科の非常勤講師も務めることができた」と振り返る。
また、これまでダンスや書、他の楽器などとのコラボレーションも数多く行ってきた寺田さんは、「皆様に喜んで頂ける時間を創りたいと思っている」と語る。
2007年8月、筑前琵琶保存会の一員としてイギリス公演に参加し、エディンバラやグラスゴーなどの都市を訪れて、筑前琵琶を奏でた。
「現地で公演するまでは、琵琶の音色は日本人にしか受け入れられないのではないかと思っていた。しかし、実際に筑前琵琶を演奏してみると、スコットランドの人々の反応が日本人よりも良かったことは、本当に驚きだった」と寺田さんは明かす。
異郷の地では、能や歌舞伎などの日本の伝統芸能だけでなく、ゲームやアニメなどについても多く質問された。
その一方で、福岡という都市の知名度の低さも肌で感じたそうだ。
このような経験を持つ寺田さんは、「日本人として自国や地域の事を語れる内容を持つことが大切だと思った。地元の歴史や文化を学び、筑前琵琶という特色ある楽器でまずは、身近な人たちに知ってもらうことが重要である」との思いを新たにした。
地元発祥の筑前琵琶を通じて地元を学び、伝える

「一つ一つの舞台を大切にしていきたい」と真摯に語る寺田さんは、「受け継いだ古典は、次の一歩を踏み出す上での指針になる。良き伝統を守りながら新しい一歩を進めるために古曲のお稽古は大切。その上で多くの人々が関心を抱くテーマや出来事などを新しい演奏曲として創作し、今に生きる筑前琵琶の魅力を広く伝えていきたい」と胸を膨らませる。
「奏者のみならず、聴者も共に育っていくことが、伝統芸能が継承されていくために必要」との思いを抱きながら、寺田さんの挑戦は続いている。
DATA
名 称:筑前琵琶保存会
住 所:福岡市
創 立:1965年
代表者:寺田蝶美
活 動:筑前琵琶の継承と発展
URL:https://chikuzenbiwahozonkai.mystrikingly.com/


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