【人物図鑑】子どもと地域の〝未来〟を育むオーケストラづくりへ向け指揮棒を振る

指揮者
クローバルホール主宰
木村厚太郎

【画像】ふくおか人物図鑑 指揮者  クローバルホール主宰  木村厚太郎
指揮者
クローバルホール主宰
木村厚太郎

【きむら・こうたろう】
1981年7月18日生、宮城県気仙沼市出身。5歳からバイオリンを習い始め、後にビオラ奏者へ転向。福岡県立田川高校卒~福岡教育大学教育学部芸術コース卒~桐朋学園大学の指揮教室を修了。アントニオペドロッティ国際指揮者コンクールに出場。サンクトペテルブルクチャイコフスキーシンフォニーオーケストラ首席客演指揮者、マイコープナショナルフィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者を務め、ロシア国内のマイコープ、サンクトペテルブルク、ノボシビルスク、トムスク、チェリャビンスクのオーケストラで客演。ベトナムのハノイVNOBオペラバレエオーケストラを客演。ベートーベン交響曲・ブラームス全交響曲演奏会をアクロスシンフォニー福岡で指揮。2005年~2019年の間にベートーベン第九番交響曲合唱付を田川市、宗像市などで公演。2012年オーケストラスタイルKと和白・川崎町・宗像市の第九合唱団が宮城県気仙沼市で公演。ニューヨークで『3.11メモリアルコンサート』を指揮。ベトナムや韓国、アメリカ、ロシアのオーケストラと共同プロジェクトを推進。現在、福岡県文化団体連合会特別会員、福岡市・桜坂で音楽ホール兼レッスン室『クローバルホール』を運営する。

【3Points of Key Person】

指揮者であり、バイオリニスト、ビオラ奏者。音楽ホールを運営
◎ 5歳で音楽に目覚め、3・11で気仙沼や米国・NYでの公演を指揮
◎ G7歓迎時、ベートーベン生誕記念で3万人による第九合唱で祝う

子どもを聴衆にアウトリーチ型オーケストラを構想

【画像】ふくおか人物図鑑 指揮者  クローバルホール主宰  木村厚太郎

ロシア、アメリカ、ベトナム……。福岡を拠点に国内外でオーケストラを相手に指揮棒を振ってきた指揮者の木村厚太郎さんは、「一社会人としては、音大生ら音楽を志す人たちに≪音楽でも食っていける≫ことを自ら証明していきたい。そして、個人的には、芸術の業であるバイオリン奏者、ビオラ奏者、そして指揮者として、頭の中で鳴り響いている音を組み立ていきながら、納得できるモノにしていくことを追求したい」と、にこやかな表情をみせる。

目下、新型コロナが世界的に猛威を振るって社会生活や経済活動に大打撃を与え、音楽家らも窮地に立たされている。国内外での音楽活動を断たれた木村さんは、音楽家仲間らに呼び掛けて深刻な実態をアンケートにまとめて行政当局へ訴えた。
一方、コロナ禍克服に向けて国内外の音楽家らと一緒に作ったオリジナル曲『桜は咲いている』を歌い広めながら、自らもYouTuberとしてデビューした。そして、楽器を片手に飲食店などを回る〝バイオリンの流し〟にも挑戦した木村さんは、体調を崩した知人のスナックママのサポート役としてカウンターに立ち、「今まで音楽活動しか経験してこなかったので、新鮮に思える」と苦境の中、前向きだ。

「≪クラシック=芸術≫という考えは、一時的に止めるべきではないだろうか。この考えに固執すると、独り善がりになって、うんちくに走りがちで結果的に一般の人たちとのギャップが生じている」と木村さんはみる。
そして、隔たりを埋める方策としては、「生の音楽に触れること。オーケストラは、自然界の音を集めて、人類が作り上げた最高峰の音を集めた集団であり、その生演奏に耳を傾けてほしい。そのきっかけとなる『アウトリーチ型オーケストラ』を立ち上げたい」と意欲をみせる。
保育園児・幼稚園児~高校生を対象にして、彼らが学ぶ学校へ出向いて演奏していく楽団が、アウトリーチ型オーケストラだ。「たしかに忖度しない子ども相手の演奏はワクワクする半面、独特の難しさもある。海外では、音楽は学力や経済力と結びついて理解されており、アウトリーチ型オーケストラは〝世直し〟であり、自分にしかできない挑戦になり得る」との思いを木村さんは抱く。

第九つながりの地元合唱団が東北やNYで歌い上げる

【画像】ふくおか人物図鑑 指揮者  クローバルホール主宰  木村厚太郎

木村さんは5歳の時、NHK連続テレビ小説『チョッちゃん』に登場した天才バイオリニストに感化されてバイオリンを習い始めた。そして、師事した音楽教師が主宰する子どもオーケストラにも参加し、子どもながらも指揮棒を振ったこともあった。
その後、ビオラ奏者に転向した木村さんは福岡教育大学の芸術コースへ進学した。そして、在学中に指揮者としての本格的な活動を始めた木村さんは、世界的な指揮者である小澤征爾らを輩出した桐朋学園大学の指揮教室に学ぶ。3年間通った後、「恩師から『指揮法教程』の斉藤秀雄メソッドの〝免許皆伝〟を得た」という木村さんが意気込んで東京進出を果たした矢先、東日本大震災が襲い掛かってきた。

深刻な震災被害や原発事故なども重なって重苦しい世相で1年半、ニート生活を余儀なくされた木村さんにとって転機となったのは、ロシアでの指揮者オーディションだった。
審査の結果、サンクトペテルブルクチャイコフスキーオーケストラ首席客演指揮者に就任した木村さんは、マイコープナショナルフィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者も務め、さらにロシア各地のオーケストラでも客演した。さらにベトナムでのハノイVNOBオペラバレエオーケストラを指揮したホーチミン生誕75周年国家式典での演奏は、異例となる日本人指揮者の登壇で話題となった。

一方、福岡県川崎町の公演で指揮をきっかけにして、川崎町と〝音楽によるまちづくり〟に乗り出した。そして、町民らで構成した合唱団が毎年末、ベートーベンの交響曲第9番合唱付を歌うことを始める。
「第九はみんなで仲良く一緒歌えて、3世代にわたるコミュニケーションも可能になる合唱でもある」と、木村さんが考える活動は2004年から15年間手掛けた。この間、保育園児らの小さな子どもがドイツ語での第九を歌えることが分かった。そして、指揮を本格的に学ぶ子ども指揮者のタクトで子ども合唱団が、第九の合唱を抜粋して歌い上げた。

東日本大震災後のチャリティーコンサートで募った義援金を宮城県気仙沼市へ送金しようと連絡したところ、「来てほしい」という声を先方の担当者から掛けられた。
この言葉に背中を押された形でチャリティーコンサートに参加したオーケストラと合唱団の120人は被災地を訪ねて、震災で廃校になる小学校の校歌も演奏した。
そして、被災地の公演動画を見たアメリカの音楽関係者から公演を依頼された。そして、気仙沼で公演したメンバー有志で渡米し、ニューヨークでの『3・11メモリアルコンサート』において、日本の小学校校歌を現地の聴衆の面前で演奏した。

 G7開催時、各国VIPを3万人の第九合唱で歓迎する

2023年に日本で予定される主要7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地の誘致に向けて、福岡市は名古屋市、広島市とシノギを削っている。
「サミットが福岡で開催される暁には、福岡PayPayドームで3万人による第九合唱で主要国VIPを歓迎する」との構想を木村さんは練る。当初、ベートーベン生誕250年にあたる2020年の東京五輪開催時に計画していたものの、コロナ禍が立ちはだかった。

「偉大な作品を残したベートーベンの根底にあるのは≪みんなで仲良く≫という思いだと考える。そんなベートーベンに対して、≪ありがとう≫の思いを込めて、バースデーソングとしてみんなで第九の合唱を歌いたい」と、精悍な表情をみせる木村さんは、音楽家人生という名の〝交響曲〟のタクトを振り続ける。

DATA

名 称:音楽ホール兼レッスン室『クローバルホール』
住 所:福岡市中央区警固3-3-7 ibbDb桜坂Launch 501
開 設:2016年10月
代表者:指揮者 木村厚太郎
事 業:音楽活動・音楽ホール運営
URLhttps://www.youtube.com/channel/UCYqtwG3os5VNUb_2pdt_Bkw

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