【人物図鑑】再生可能エネルギーのゲームチェンジャーが日本と世界の未来を切り開く

九電みらいエナジー株式会社
常務取締役 事業企画本部長
寺﨑正勝

常務取締役 事業企画本部長
寺﨑正勝
【てらざき・まさかつ】
1959年5月4日生、福岡市出身 西南学院大学商学部経営学科卒。1982年九州電力に入社、広報部副長、事業開発部課長、経営企画部課長を経て、2007年経営企画室地域戦略グループ長、2010年社長室副室長(経営政策担当)、2012年株式会社九電ビジネスフロント代表取締役社長、2014年九電みらいエナジー株式会社取締役企画本部長を経て、2020年6月同社常務取締役事業企画本部長に就任。趣味は天体観測・天体撮影。
【3Points of Key Person】
◎ 風力をはじめ5電源を手掛ける、日本唯一の再エネ会社常務
◎ 九電出身、事業開発や子会社再建を手掛けて、同社設立メンバー
◎ 海洋再生可能エネルギーがライフワークに、後進の人財育成に尽力する
五島列島で日本初の潮流発電の実証実験を実現

長崎県五島列島―-。奈留島と久賀島との海峡・奈留瀬戸において、日本初となる大規模潮流発電の実証実験が進む。水深40メートルの海底に設置された、最大高23.7メートル・重さ約1000トンの発電機(出力500キロワット)は、潮の満ち引きによるプロペラの回転で電気をつくる。
従来、再生可能エネルギーを用いた発電の多くは、天候などによる出力変動リスクを抱えていた。潮流発電は風力発電と同様な羽根を用いて、規則正しい潮の満ち引きで発電するため、発電量が予測できるところが特徴だ。
「海に囲まれた日本に相応しい。何とか日本で実現させ、地域の振興にも生かせないか」
九電みらいエナジーの寺﨑正勝常務取締役事業企画本部長は2015年10月、海洋エネルギー視察で訪れた英国北部の離島で潮流発電を目にして自問した。
翌2016年6月、環境省の補助事業に採択され4者共同でスタートしたものの、ヨーロッパの潮流発電機メーカーの経営破綻で頓挫した。2019年5月、環境省が再公募した本事業に引き続き名乗りを上げ船出した。
本事業は、コロナ禍の〝荒波〟を受けて発電機の製造遅延や運搬の遅れ、さらに設置工事を指導する外国人技術者が入国不可という事態も発生した。このため、異例の国土交通大臣特別許可を得て、外国作業船による設置工事で実現にこぎつけた。
「諦めず全力でチャレンジして乗り越えてきてくれたTeam Tidalのみんなを誇りに思う」
2021年1月23日未明、設置工事に際してあいさつに立った寺崎常務には、熱いものが込み上げてきたという。その傍らでは、5年間にわたって苦労を共にしてきたスタッフが涙する姿も見られた。
「太陽光・風力・バイオマス・地熱・水力の再エネ5電源の開発を手掛ける日本でも数少ない事業者で、調査・計画、設計・施工管理、運営・保守までを一気通貫で手掛ける再エネのゲームチェンジャーである」と、寺﨑常務は自社について紹介する。同社は、九電グループの再エネ分野の経営資源を結集して2014年に発足した。
これまで、自治体と協働した国内初の地熱発電『菅原バイナリー発電所』、東日本大震災からの地域復興も担う太陽光発電『レナトス相馬ソーラーパーク』、地域のかんがい用水路などを有効活用した『鴨猪水力発電所』、福岡県初となる国内の未利用木材(間伐材など)を専焼する『ふくおか木質バイオマス発電所』などの実績を積み上げてきた。
現在、九電グループ最大となる大型風車(単機出力3400キロワット)を採用した『唐津・鎮西ウィンドファーム』、寺﨑常務が社長を兼務する下関バイオマスエナジー合同会社(九電みらいエナジー子会社)が手掛ける国内最大級の木質バイオマス発電『下関バイオマス発電所』の建設が本格化。
更に、「今後、再エネは陸から海へ」ということで、福岡県北九州市響灘において、改正港湾法第1号となる大規模洋上風力発電プロジェクトを主導している。
「再エネは地域の財産・恵みである山や海を使わせていただいており、その事業展開においては、法に叶い・理に叶い・情に叶うことが大切だ」と、寺﨑常務は真摯に語る。
九電での異色キャリアが再エネ発電事業開発に生きる

1980年初頭、当時大学3年生だった寺﨑常務は2月から3カ月間、イギリス、スウェーデン、スペイン、トルコなど十数カ国をバックパッカーとして旅した。
ヨーロッパの素晴らしさを体感した寺﨑常務は、「改めて日本の良さや素晴らしさに気付かされ、地元・福岡で地域に役立つ仕事をしたいとの思いが高まった」。そして、就職活動で内定を得た中でも寺﨑常務は九電に入社した。
九電時代の転機として寺﨑常務が挙げるのは、1988年の九州地域産業活性化センターへの出向だった。
同センター発足に向けて各社・各官庁から人員が集まってきた中、「違う価値観の人たちと一緒に仕事をした結果、人脈と共に考え方や物の見方の幅が広がった」「九電を外からみる機会になった上、グランドデザインづくりを通じて、有識者や専門家との知遇を得た」と、寺﨑常務は目を細める。
その後、九電に戻った寺﨑常務は、企画部門で社長コメントの作成を担当した際、当時の上司から「君は一体、誰をみて仕事をしているのか」との問い掛けをきっかけに≪自分が経営者になったつもりでコメントを書く≫ことに徹した。
そして、国内で初めて電力会社と自治体で手掛ける一般廃棄物処理事業「株式会社福岡クリーンエナジー(福岡市・九電の出資)」の事業立ち上げを担当し、「プロジェクトファイナンスをはじめ、プロジェクトの創出と管理などを実地で学んだ」と振り返る。
発足後、九電事業開発部課長、経営企画室課長、経営企画室地域戦略グループ長、社長室副室長を歴任した寺﨑常務は2012年 6月、人材派遣業務を手掛ける株式会社九電ビジネスフロントの経営再建に代表取締役社長として送り込まれた。
トップセールスによる大型案件獲得をはじめとした積極策も奏功して、初年度での黒字転換を果たした寺﨑常務は、「《決断は速く》《責任は自分が負う》という仕事の姿勢で取り組んだ原点は、会社を経営していた父の姿にあると思う。高三の時に父を亡くしたが、自分の中に経営者だった父の血は流れている」ことを痛感した。
経営再建を果たした後、新設された九電みらいエナジーの取締役企画本部長に就き、「子会社での社長経験は当社でも生きている。〝九電らしくない会社〟を目指して、スピード&チャレンジを合言葉にみんなで走りながら考え、ここまでやってきた」と、笑顔をみせる。
再エネのプロマネが天職、大自然の醍醐味に浸る

「海洋再生可能エネルギーがライフワークであり、洋上風力発電や潮流発電の実用化に尽力している」と朗らかな表情をみせる寺﨑常務は、後身の人財育成に余念がない。
江戸初期の剣術家であり、柳生十兵衛の父としても知られる柳生宗矩が語った「小才は縁に逢って縁に気が付かず、中才は縁に逢って縁を活かさず、大才は袖触れ合う他生の縁もこれを活かす」を座右の銘とする寺﨑常務は、「チャンスを生かしながら、自らの経験と実績を積み上げていってほしい」と、慈愛のまなざしで語る。
オンタイムは再エネのプロジェクトマネージャーとして多忙な日々を送る寺﨑常務は、オフタイムにおいて大分県玖珠山中の個人天文台で〝星見〟で浸っていることも多いとか。大自然の中で宇宙の神秘に触れながら、未来に向かって舵を取る。
DATA
名 称:九電みらいエナジー株式会社
住 所:福岡市中央区薬院3-2-23 KMGビル8階
設 立:2014年7月1日
代表者:代表取締役社長 水町豊
事 業:再生可能エネルギー発電事業(太陽光・風力・バイオマス・地熱・水力)、小売電気事業
URL:https://www.q-mirai.co.jp/
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