【人物図鑑】超富裕層向けプレミアム旅行を切り口に地域づくりの新たな可能性を追求

Eまちグループ株式会社
代表取締役社長
田中正則

田中正則顔写真
Eまちグループ株式会社
代表取締役社長
田中正則

【たなか・まさのり】
福岡県久留米市出身、1963年9月20日生、福岡県立伝習館高校卒~西南学院大学法学部卒。1986年安田信託銀行に入行、HSBC証券での勤務を経て、福岡ソフトバンクマーケティング株式会社(現福岡ソフトバンクホークス)に入社。王貞治ベースボールミュージアムの立ち上げをはじめ、ホークスと地域と行政が連携する新たなビジネスモデルや地域連携まちづくりモデルを多数構築。2013年4月に一般社団法人Eまちラボを設立して代表理事に就任。現在はEまちICT株式会社、Eまちグループ株式会社で企業グループを形成。伊勢神宮勾玉会参与も務める。

【3Points t of Key Person】

◎超富裕層向けに九州を舞台としたプレミアムツアー実施
◎孫正義に提案した企画を契機に電気通信一次事業者となる
◎ファンドと富裕層とのコラボで新たな地域づくりに挑戦

一人300万円でも赤字のプレミアム旅行をなぜ続けるのか

お一人さま価格50万円~300万円――。首都圏の富裕層らを主な対象にプレミアムな高額ツアーが動き出し始めた。
「日本には長年、自然や文化、伝統技や食などを地域や匠が守り、育み、伝えてきた《本物と時空の物語》がある。これらの土地を訪ねて、技や産物を見て・聴いて・触れて・香り・味わい・対話することで本物の価値を体験・体感できるクラシックでヴィンテージな≪旅物語≫が、『The Premium京都』、『The Premium九州』だ」
国・県・市町村など行政からの委託事業として、観光をテコにした産業振興や交流促進、人材育成などを通じて地域づくりを手掛けるEまちグループ株式会社の田中正則代表取締役社長は、The Premium京都・The Premium九州の意義について解説する。そのキーワードとして、≪1組限定≫≪オーダーメード≫≪日本ならではの物語≫を挙げる。

富裕層らに向けた九州のプレミアムツアーとしては、JR九州のクルーズトレイン『ななつ星in九州』が代表的だ。ななつ星との違いについて田中社長は、「ななつ星が定員28人の団体旅行なのに対して、The Premium京都、The Premium九州は、1組限定をテーマとした≪旅の物語≫だ。そこには普段、見られない・行けない・味わえない特別な〝美景〟〝空間〟〝美食〟があり、さらに人間国宝をはじめとした一流の本物の人たちと一組のお客さまだけの特別な交流や共作の〝体験〟ができる点でも大きく違う」とする。
The Premium京都、The Premium九州の主な対象層は日本における超富裕層の個人資産家だ。彼ら向けに資産運用の提案をはじめとするトータルなサービスを提供するプレミアムメニューの一つとして、The Premium京都、The Premium九州がラインナップされている。

京都におけるプレミアムな体験としては、一般では立ち入ることのできない神社仏閣の神聖なる特別な場所での特別な時間と空間は、世界平和をはじめ、ご自身やご家族の健康や多幸や子孫繁栄、会社や事業の発展などの祈りを捧げる貴重な機会となっている。
また、京都の特別な寺院を貸し切っての紅葉狩りや茶会、山鉾が目前を通るVIPルームでの京都祇園祭り、人間国宝の工房を訪ねての交流や共作などによる特別な時間の過ごし方が可能となる。
「ここで大切なのは、お客さまが≪何のために祈るのか≫≪誰のために祈るのか≫であり、また、祭りや遺産の起源や長年にわたる存在の意味を知り、理解していただくことである」と田中社長は説く。

一方、九州においても深川製磁の有田焼プレミアム、JRななつ星に採用された木下木芸の大川組子工房、西郷隆盛のひ孫による薩摩維新物語、長崎外海・五島での世界遺産の特別な聖地巡礼、プレミアム温泉宿・天草の『天空の船』、湯布院の『山荘無量塔』での特別演出などが挙げられる。
そこには本物が伝えてきた《物語》が存在し、その物語を一組のお客さまだけが堪能することで本物に対する真の理解につながり、日本文化への造詣と支援への契機となるという。

もっとも旅行単価50万円~300万円という料金設営にも関わらず、「最高級の満足とおもてなしを追求して、莫大な手間ひまやコストを掛かるために結果的に赤字になってしまう。では、なぜ赤字なのに続けられるのか? その理由は、ソフトバンクホークスとの協業によるまちづくりや、ソフトバンクとの合弁によるICTデータ通信事業を柱にしており、The Premium京都、The Premium九州は、日本文化継承事業として位置づけ、社会貢献の一環として取り組んでいる」と、田中社長は明かす。

孫正義氏にプレゼンした企画力で観光庁事業の一番人気に

画像提供:福岡市

「《無から有を創る》のが役割だと考え、社会や地域の課題に対して、持続可能な仕組みづくりや人材育成で解決を目指す」とする田中社長の振り出しは銀行マンだった。
安田信託銀行で法人の新規開拓営業や企業経営コンサルティング部門でキャリアを積んだ。
その後、HSBC証券での勤務を経て、ソフトバンクによる福岡ダイエーホークス買収のタイミングで福岡ソフトバンクマーケティング株式会社(現福岡ソフトバンクホークス)の社員番号1番の社員として、福岡へのUターン就職を果たした。

入社当初、パソコン設定作業から手掛け、その後王貞治ベースボールミュージアムも立ち上げた。そして、ホークス球団と地域と行政が連携するビジネスモデルや地域連携まちづくりモデルを多数構築した。
なかでも高齢者らの〝買い物難民〟対策として考案した、ICT活用の地域公共サービス『デジタル三河屋』は、ソフトバンクアカデミアの塾生としてソフトバンクグループ総帥の孫正義社長兼会長に直接プレゼンテーションをした。さらに総務省からも評価されて後年、電気通信一次事業者となるきっかけにもなっている。

2012年から地域貢献事業としてホークス球団を活用したスポーツ観光をスタートさせた。その後2015年、観光庁による観光地ビジネス創出の総合支援事業の一般投票部門において、当時開発したプレミアム九州が第1位を獲得した。これが転機となって、JALパックの最高級商品『日本漫遊』に採用され、JR九州クルーズトレインななつ星『プレミアムプラン』にも取り入れられた。さらに阪急百貨店外商部の富裕層向けプレミアムツアーとして、阪急交通社とのコラボレーションで商品化を実現した。

その一方でヤフードーム周辺地域の振興として取り組んだ国民的アニメであるサザエさんを生んだ長谷川町子財団と交渉を重ね、シーサイドももちエリアの産官学民連携地域協議会モデルでサザエさん通りを実現した。
さらに球団と地元住民、唐人町や西公園の商店街、西日本短大などとの関係の継続・発展に腐心した結果、2019年にはホークスとうじん通りまちづくり協議会によるホークスフラッグの街灯掲示や、ホークスとうじん通りガーデンをつくりなどの地域づくりがスタートした。
「長年の苦労がようやくカタチになったが、まちづくりとしては緒に就いたばかり」と、田中社長は心を引き締める。今後はヤフードームへの年間来場者400万人を地元の商店街などへ還流させていくエリアマネジメントや、新たなソーシャルなビジネスモデル地域づくりについて、バリアフリーインフラ整備も兼ねて仕掛けていくことで、持続可能な、安全・安心で楽しいまちづくりを実現する考えだ。

金融手法・ファンド☓スポンサー・富裕層=新たな地域づくり

田中社長が伝統工芸・芸能に興味を抱くようになったのは銀行時代、岡倉天心、横山大観が提唱・創始した巧藝画を手掛ける株式会社大塚巧藝社への経営コンサルティングを担当したのがきっかけだった。
ほぼ同時期に元音楽家志望の創業者が、株式上場益を基金にして、世界に通用する若手音楽家を育英支援することを目的とした財団や、九州に向けたアジアからの留学生を受け入れる国際奨学育英財団設立の経験をもつ。

これらを原点にして、金融手法であるファンドの仕組みを用いて、富裕層をスポンサーとすることで、〝生きたカネ〟の活用による伝統工芸や芸能の継承支援や、神社仏閣等の文化財保護、地域振興の構想をいま練っている。
「地域課題の解決を目指して、未来に向けたまちと人を育成し、仕組みを構築していく」と語る田中社長は、≪あきらめない≫という言葉を座右の銘とする。

DATA

名 称:一般社団法人 Eまちlab
住 所:福岡市中央区大名2-10-8 プレミスト天神赤坂タワー409
設 立:2013年4月9日
代表者:代表理事 田中正則
事 業:地域と人づくりのコンサルティング、 富裕層向けプレミアム体験・旅行の企画、ICT(通信)を活用した地域公共サービス(デジタル三河屋)、電気通信一次事業者としてのデータ通信端末販売
関 連:Eまちグループ株式会社、EまちICT株式会社
URL: http://emachi-group.jp/e-machilab/

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