【人物図鑑】〝福岡の海〟を子どもや学生・市民らと共に学び・親しみ・守っていく
九州大学大学院工学研究院
准教授
清野聡子
【せいの・さとこ】
1964年9月18日生、神奈川県逗子市出身。神奈川県立横須賀高校卒~東京大学農学部水産学科卒~東京大学大学院農学系研究科水産学専攻修士課程修了。博士(工学)。東京大学大学院総合文化研究科の助手や助教を経て2010年4月、九州大学大学院工学研究院環境社会部門生態工学研究室の准教授に就任。専門は、海岸・沿岸・流域の環境保全学、生態工学。福岡県内をはじめ、長崎県の対馬や五島なども研究フィールドとする。趣味は海辺散策。
【3Points of Key Person】
◎ 九州大学大学院の生態工学研究室で教育・研究・社会貢献に取り組む
◎ 3歳で海辺に親しみ、水産学を専攻して新分野の生態工学へ転身
◎ 海洋ゴミ問題の解決に向けて、産学官民による運搬ロボットを開発
〝福岡の海〟の研究者による海に学び・親しみ・守る活動
四方を海に囲まれた日本の海岸線は3万5,307キロあり、世界の200余りの国・地域の中で6番目の長さだ。
日本の中でも福岡県は、日本海側の『筑前海』(玄界灘)、瀬戸内海側の『豊前海』(周防灘)、内海となる『有明海』という特徴の異なる3つの〝福岡の海〟に囲まれている。
「〝福岡の海〟の一つであり、対馬暖流と寒流のリマン海流がぶつかる玄界灘は、海流や地形、海域などの複雑な条件が巧みに組み合った結果、魚種にも恵まれた魅力的で豊かな海になっている」
九州大学大学院において、生態工学や海岸・沿岸・流域の環境保全学を専門分野する清野聡子准教授は、目尻を下げる。
生態工学とは、生態学と工学をクロスオーバーさせた新しい領域を対象とし、1990年代に誕生した比較的新しい研究分野だ。
清野准教授は、もともと水産学を専門分野とし、カブトガニやタコ・イカなどの生態を研究していた。
〝福岡の海〟に魅せられた清野准教授は、福岡市へ移り住み、そして、生態工学という新たな分野における研究・教育に取り組んでいる。
「福岡市は、これだけの大都市であるにも関わらず、目の前に海が広がり、豊かな自然に恵まれた珍しい都市だ」「自然科学の研究をやっていく中においても人に行き着く。自然と人という組み合わせにおいて、福岡は極めて面白いところだと思う」と語る清野准教授は、研究・教育に続く、社会貢献活動として、海洋教育プラットフォーム『九州大学うみつなぎ』を立ち上げて日々、活動する。
糸島や宗像などの〝福岡の海〟をはじめ、対馬や五島なども舞台にする。
そして、子どもたちや学生・市民らが、海に学び・親しみ・守っていくフィールドワーク『海辺の教室』や持続可能な循環型社会づくりに向けたシンポジウムや講演会、さらに海ごみ問題の解決に向けた活動を続けている。
三つ子の〝海〟魂が研究者人生という海原へ舵を切る
[福岡の場合、身近に海があり、海辺まで歩いて行ける。また、福岡の人たちは、魚の旬にも詳しく、このような大都市は福岡だけだ」
清野准教授の父は画家であり、創作上のインスピレーションを求めて親子で海辺へよく出掛けていたそうだ。
そして、清野准教授は3歳の時、父親に伴われた海岸で海辺散策の楽しみを覚えたという。
中学時代、由比ケ浜が広がる鎌倉で過ごした後、かつて軍港だった横須賀にある高校へ進んだ。
自由な校風だった横須賀高校時代、校内に留まることなく、海辺で過ごす日々も多かった清野准教授は、進学した東京大学において水産学科を選んだ。
大学時代、魚介類の中でも当時マイナーだったタコ・イカに興味を抱き、画像技術を用いて生態を明らかにしていく。
タコ・イカは、西日本地域に生息していることが多く、学生時代は夜行列車を乗り継いで福岡や九州の海にも足を運んだ。
大学の学園祭で水族館から借り出したカブトガニに興味を抱き、大学院ではカブトガニを研究する。
大学院修了後、東京大学大学院総合文化研究科の助手や助教を務めながら、カブトガニが生息する瀬戸内海西岸や九州北部の干潟を訪ね歩く。
現在、『日本カブトガニを守る会』の会長も務める。
バブル経済が崩壊した1990年代以降の日本では、環境関連の法改正において、研究者らも議論に参画する機会を得た。河川法は1997年、河川環境の整備と保全を目的に加えた抜本的な法改正を行った。
また、海岸法も1999年、海岸環境の整備と保全、さらに公衆による海岸の適正利用を追加した抜本的な法改正をしている。
その半面、恐竜が闊歩した白亜紀から2億年、その姿を変えてこなかったカブトガニは、日本で1990年代に絶滅危惧種となり、世界的にも2018年に絶滅危惧種へ指定されるという事態に直面した。
〝生きている化石〟とも称されるカブトガニが絶滅危惧種になった要因について、清野准教授は、「カブトガニの生息地である干潟が近年、相次いで埋め立てられてしまったことが大きい」と解説する。
このような事態にも背中を押された清野准教授は2010年、生まれ育った関東から九州への移住を決断。
東大から伊都キャンパスを開設した直後の九州大学大学院の生態工学研究室へ移る。あわせて研究分野を水産学から生態工学へ転身を図った。
「研究者として、前半にカブトガニやタコ・イカなどを対象にした理学的な基礎科学をやり、後半は応用科学といえる工学分野において人と自然との関係性や歴史性も踏まえながら、日々研究している」と、清野准教授は目を細める。
海洋ゴミ問題解決の一助となる運搬ロボットを開発
「ロボットと市民が協力して海をきれいにする社会」づくり━━。
九州大学大学院の生態工学研究室は、九州工業大学や北九州工業高等専門学校、さらにボランティア団体とも協働して2017年4月、『社団法人BC-ROBOP海岸工学会』を立ち上げた。
同学会では、砂浜において自走移動しながら、海洋ゴミを運搬するロボットを開発している。
海、人、文化、歴史……。
「クロスオーバーしている世界は、魅力的で面白い。その面白さをフィールドワークやイベントなどを通じて、みんなで実感している」と語る清野准教授は、「福岡に住んでみて、文化や言語の多様性は国際的なつながりの中で生み出されており、それぞれの国や民族の固有の文化や言語を大切にしていくことが、お互いを尊重することになるという感覚が強まった」。
暖流と寒流が豊かさを織り成す玄界灘をはじめとする〝福岡の海〟を舞台にしながら、〝うみつなぎ〟の活動や産学官民での取り組みである、海に学び・親しみ・守っていくという潮流は今後、加速していきそうだ。
DATA
名 称:九州大学
住 所:福岡市西区元岡744
創 立:1911年1月1日(九州帝国大学)
代表者:総長 石橋達朗
事 業:国立大学法人(教育・研究・社会貢献)
URL:https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/
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