【人物図鑑】地域を足場に、井戸を開き、本質価値をローカルに育む『ひと・まち・しごと玄気製作所』を目指す

一般社団法人イドビラキ 代表理事 
九州大学名誉教授 
坂口光一

イドビラキ 代表理事
坂口光一

【さかぐち・こういち】
福岡県大牟田市出身、1953年5月6日生、ラ・サール高校~東京大学工学部都市工学科~同修士課程を修了。九州経済調査協会に勤務後、九州大学工学部助教授に就任。ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー、大学院経済学府(ビジネススクール)、ユーザーサイエンス機構等に従事。その後、大学院統合新領域学府担ユーザー感性学専攻教授を10年間つとめ、2019年3月九州大学を定年退職。2019年5月一般社団法人イドビラキを設立、代表理事に就任。現在、SHO-CHUプロジェクト代表、博多織デベロップメントカレッジ理事、特定非営利活動法人まる理事、なども務める。

【3Points of Key Person】

◎東大自主講座の運営を経て九経調、そして九大教授
◎九大でさまざまな〝大学の新規事業〟を立ち上げた
◎地域をタテ方向に深く掘り、特別な価値水脈を開発

九大教授を〝卒業〟して始めた新規事業の強みとは

「イドビラキとは、地域を井戸に見立て、地域の文化・文明の源泉を開き、深く掘ることで地域の仕事、暮らし、コミュニティの在り方を探求して、再耕作していく取り組みです」と語るのは2019年3月に九大教授を〝卒業〟した坂口光一・一般社団法人イドビラキ代表理事だ。
坂口代表が取り組むイドビラキの事業としては、本格焼酎を九州の代名詞として国内外に発信していく『SHO-CHUプロジェクト』、博多織をはじめとする伝統的工芸・産品を再定義していく『ニュークラフトプロジェクト』、ほんとうの豊かさと人びとの福祉(well-being)をまちやコミュニティで再構築していく『ニューソーシャルプロジェクト』が三本柱だ。

「いままで大学でやってきたプロジェクトに事業性をもたせて取り組んでいく。価値そのものの再定義にこだわり、顧客(企業、行政)と一緒にビジネスやプロジェクトを企画、実施していく。一般社団法人として立ち上げたのは、事業を通じて地域貢献や社会への恩返しをしたいという思いからだ」と、坂口代表は大学教授卒業後の〝進路〟として起業を選んだ理由を明かす。
20歳から約7年間東大自主講座の運営に携わった後、九州経済調査協会で調査マンとしての経験を積み、大学教授になった後もいろいろなプロジェクトを立ち上げた坂口代表はいま、自らの起業という新たなチャレンジに挑んでいる。

東大自主講座から九経調へ、そして九大で新規事業を担当

「九経調から九大への移籍が、人生における大きな転換点だった」と振り返る坂口代表は、「シンクタンク時代は産業・経済分析、企業調査や地域計画などの調査・研究という“客観的”な仕事ばかりだったが、九大へ移ってからはベンチャーラボラトリーの立ち上げをはじめ、ビジネススクール設立や伊都新キャンパスへの移転、産学連携の仕組みづくりなど、〝大学の新規事業〟を手掛けてきた」と、目を細める。
大学へ移籍して、すぐに立ち上げたのが、実践型の起業家セミナー『起業家よる塾』だ。夜と寄ると拠るという3つの〝よる〟を掛け合わせた塾では、様々な社会現場で活躍している起業家や経営者を講師として招いた。
そして、講演後に講師を囲んで酒を酌み交わしながら歓談・交流するスタイルが以後、坂口代表が取り組む基本的なスタイルの原型となった。

その後、全学的な起業セミナーの開講、学生の挑戦を応援するチャレンジ&クリエーションプロジェクトの立ち上げ、産学連携・技術移転の仕組みづくり、九大学研都市構想策定等に取り組んだ。
さらにビジネススクール(大学院経済学府産業マネジメント専攻)の設立準備とベンチャー論の講義を手掛けた後に取り組んだ大型プロジェクトが、ユーザーサイエンス研究プロジェクトだった。
同事業は文部科学省の『戦略的研究拠点育成プログラム』(スーパーCOE)という一大プロジェクトであり、ユーザーの視点から技術と感性の融合を図り、新しい学問『ユーザーサイエンス』を切り拓くという革新的な挑戦だった。
プロジェクト推進上の中心的な存在だった坂口代表は、「最盛期には、雇用や業務委託で約30人を抱える大型プロジェクトだったが、ヒトやカネの使い道についての難しさも痛感させられた事業だった」と語るように失敗、苦労の多いプロジェクトでもあった。
ユーザーサイエンス研究における成果は、その後に発足した文理融合型の大学院統合新領域学府ユーザー感性学専攻に引き継がれた。

2013年7月にユーザー感性学専攻での取り組みをきっかけにして、九州7県11蔵元とともに誕生したのが、『SHO-CHUプロジェクト』だ。坂口代表は、「九州が世界に誇る『焼酎』という蒸留酒の価値を再定義して、情報発信していくことで焼酎文化の振興を図っていく活動である」と解説する。
焼酎カレッジ、焼酎夜会、櫛田神社での焼酎発展祈願祭……。これらの取り組みを通じて、焼酎の感性ブランド価値創造を目指す坂口代表は今後も焼酎を基軸に地域の産業や文化などを深掘りしていくことで根源的な〝価値水脈〟を探る考えだ。
今後の具体的な取り組みとして、2019年のラグビーワールドカップでの焼酎記念ボトル企画、2020年の東京オリンピック開催に合わせての『世界蒸留酒オリンピック・世界蒸留人会議in九州』開催なども現在、構想中だ。  
一方、博多織の技能者を養成する博多織デベロップメントカレッジ(DC)には2005年のNPO設立時から携わり、授業の担当だけでなく、理事として学校経営にもあたる。
「博多織DCは人材育成だけでなく、事業創出、交流、連携など社会に開かれたプラットフォームだ。博多織をはじめとする伝統工芸や伝統産品を時代に合わせた価値の再定義や新市場開発に取り組んでいく」と、坂口代表は意気軒高だ。

従来のマーケティングと対局な〝タテ展開〟で価値を発掘

モノゴトの本質的な根源を探っていく上では、その価値を決定づけるモノサシや世界観の重要性を意識する坂口代表は、「いままでのマーケティングは差別化を軸として水平方向に市場機会を広げていく平面展開だった。これに対して今後は、人文的な教養やリベラルアーツ的な視点でモノやコトを深く掘っていく垂直思考によって、普遍的で根源的な価値を見出すことが重要になってくる」とする。
このようなタテ展開を図っていく上で浮かび上がったな比喩(メタファー)が、〝井戸〟だったのだ。
「地域のヒトや資源、文化に新たな光を当て、未来をつくり出す地域潜在力として再定義していく。これらの地域潜在力に対して、特別な価値や普遍的な意味を見出し、地域に根ざした価値として磨き、発信していくことで、真の豊かさや人びとの幸せの実現につなげていきたい」と意欲をみせる坂口代表。まずは足元に眠る〝宝物〟の発掘からということで、イドビラキの事業をスタートさせた。

DATA

社 名:一般社団法人イドビラキ
住 所:福岡市中央区天神5-4-15 テンジン5丁目アパートメント
設 立:2019年5月10日
代 表:代表理事 坂口光一
事  業:地域に根ざした仕事、暮らし、コミュニティの新しい在り方を、探求、再−耕作、創造していく協働クラフト型の事業

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