【人物図鑑】後期高齢者の〝ばあちゃん〟会社で地域の〝宝〟を掘り起こす

【画像】うきはの宝株式会社 代表取締役 大熊充

うきはの宝株式会社
代表取締役
大熊充

【画像】うきはの宝株式会社 代表取締役 大熊充
うきはの宝株式会社
代表取締役
大熊充

【おおくま・みつる】
1980年7月25日生、福岡県うきは市出身、福岡県立浮羽高校を経て別府大学付属高校(現明豊高校)卒~赤門自動車整備大学校ハーレーダビットソン科卒。バイク関連業界に従事して、バイク事故での約4年の入院生活後の2014年1月、大熊Webデザイン事務所を創業して代表に就任。2017年4月専門学校日本デザイナー学院九州校に入学して、グラフィックデザインとソーシャルデザインを学ぶ。ボーダレスアカデミー二期福岡校を修了して、うきはの宝株式会社を2019年10月に設立、代表取締役に就任。2020年2月に福岡県主催のビジネスコンテスト『よかとこビジネスプランコンテスト』で大賞を受賞。

【3Points of Key Person】

後期高齢者の〝ばあちゃん〟会社を設立、福岡県ビジコンで大賞受賞
◎バイク事故で4年入院、デザイン事務所を起業、そしてばあちゃんに恩返し
◎ばあちゃん食堂の開設やばあちゃん会社の全国展開などを構想、

誕生半年の〝ばあちゃん〟会社が福岡県ビジコンで優勝

【画像】うきはの宝株式会社 代表取締役 大熊充

福岡県主催の『よかとこビジネスプランコンテスト』において、設立半年足らずの《75歳以上の〝ばあちゃん〟たちが働く会社》が大賞に選ばれて話題となった。
「うきは市のばあちゃんたちが働く会社として、地方の田舎が直面する少子高齢化の状況を受け入れて、前向きにばあちゃんたちと一緒になって、生きがいをもって働ける地域や社会をつくっていきたい」と、大賞受賞企業であるうきはの宝株式会社の大熊充代表取締役は生き生きとした表情をみせる。  

「最初、生まれ故郷だから好き、地元を良くしたいと漠然としたイメージしかなかった」という大熊代表は地元・うきは市において、大熊Webデザイン事務所というデザイン事務所を営んでいた。一念発起して、2017年4月日本デザイナー学院福岡校のグラフィックデザイン科に社会人入学した。
翌年ソーシャルデザイン学科が新設されると、校内で講師に間違われることも多かったという大熊代表は、「両方受講できたので、実質的にソーシャルデザイン学科の〝0期生〟にあたる」と笑う。

そして、ソーシャルデザイン学科のゲスト講師で登壇した当時、油津応援団の木藤亮太氏の「言い出しっぺは優秀でなくて良い。旗を振る勇者がいれば、戦士や魔法使いらが自然と集まって来る」との言葉に触発されて、大熊代表は「勇者になろう」と決心した。
さらにダブルスクールで通った社会起業家育成のボーダレスアカデミー福岡校で、「ソーシャルコンセプトは何か。誰の為に、何の為に事業をしていくのかというイメージが固まった」ことで在学中の2019年10月に会社を設立した。

もっとも、事業計画の立案に向けた実態調査の一環として、高齢者をはじめとする交通弱者や買い物弱者向けに『高齢者の無料送迎サービス』を始めてみると、各地域で高齢者が孤立していたり、生活に困窮している姿も目の当たりにした。
その一方で身体が元気なうちは働きたいというお年寄りがいても75 歳以上の後期高齢者の場合、働く場が皆無という現実にも直面して、いろいろと思い悩むことも多かった。
「うきは市の人口の1割にあたる約3000人の人たちと会っての対話を通じて、仮説が確信に変わった」結果として誕生したのが、「おばあちゃんに生きがいを持ってもらい、収入を増やしていく」ための〝場〟でもある、うきはの宝株式会社だ。
設立後、元保育園の給食室を転用した食品工場で惣菜やおむすびをつくって、道の駅で販売する事業でスタートを切った。

事故でバイクの夢を絶たれながらも天職を見出す

【画像】うきはの宝株式会社 代表取締役 大熊充

「子どもの頃からハーレーダビッドソンに憧れたバイク好きだったので、10代・20代の夢はバイク屋になることだった」という大熊代表は社会人になって、ハーレーダビッドソン関連のバイクショップや板金・金属加工会社などで働いた。
20歳台半ばにバイク事故に遭って、トータルで4年にもおよぶ入院生活を余儀なくされた。精神的にもすさみがちだった入院の日々で当時、同じく入院中だったお年寄りの女性が何度も同じ話題を話し掛けてくることで精神的に救われた経験も持つ。

退院後に再就職を目指したが、折からのリーマンショックも重なって叶わなかったので、金属加工や板金技術を生かしたバイクや楽器向けのグッズづくりで独立した。
「自信作だったが、まったく売れなかったのでインターネットで売ろうと、独学でWebマーケティングを勉強した」という大熊代表が我流で取り組んだ結果、「要は見せ方次第。欲しいと思わせる仕掛けが重要だ」ということを発見した。
そして、海外の有名ミュージシャンが購入して愛用したこともきっかけになって、真ちゅう製の高級ピックガードが飛ぶように売れた。「田舎では、ネット通販で売れているということだけでも話題になって、企業やお店からのWeb制作の仕事が相次いで来るようになった」と、大熊代表は目を細める。

事務所開設5年で300社余りのお店や会社のデザインやWeb制作、ブランディングなどを手掛けた。
その半面において、「基本的にデザインは一品物であり、狭い意味でのデザインよりも、もっと社会的に関わるようなデザインの仕事をやっていきたい。そして、困っている人たちを救いたいという気持ちが高まってきた」こともあって、二十歳前後の若者と机を並べての第二の学生生活につながった。
そして、〝第二の学生〟起業によって誕生したうきはの宝には現在、官民を問わず視察や取材が相次ぐ中、大熊代表は、「亡くなった祖母や恩人のばあちゃんの替わりに他人のばあちゃんに恩返している」と、顔をほころばせる。

ばあちゃん食堂やばあちゃんユーチューバーも計画

【画像】うきはの宝株式会社 代表取締役 大熊充

「田舎は実に遊休施設が多いので、これらの施設を活用していきたい」とする大熊代表は、白壁の屋敷で知られるうきは市指定文化財の鏡田屋敷において、『ばあちゃん食堂』のオープンも計画中だ。
「今後、考案していく新規サービスのコンセプについても、ばあちゃんたちのやりがいと収入増だ」と言い切る大熊代表は、定番の通信販売をはじめ、経験豊かな〝ばあちゃんによるオンライン人生相談〟も検討しており、さらに人生百年時代に向けた〝ばあちゃんユーチューバー〟のデビュー構想も密かに温めている。

「それぞれのまちに直販所があるので、一つのまちに一つのばあちゃん会社ができると思う。パイロットモデルとして構築していくことができたら、将来的に各地域の若者らが立ち上がって、事業化していくこともできると考えている」「ばあちゃんと若者で共に働き、みんなで協力して場をつくることによって、〝宝〟は地元のばあちゃんだけでなく、次世代を担う若者自身も含まれている」と考える大熊代表は地道に汗をかきながら、地域の〝宝〟を掘り起こし続ける。

DATA

名 称:うきはの宝株式会社
住 所:福岡県うきは市浮羽町浮羽756 FLAT FORM UKIHA内
設 立:2019年10月
代表者:代表取締役 大熊充
事 業:ばあちゃんたちの知恵と特性を生かした商品とサービスの開発・供給
URLhttps://ukihanotakara.com/

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