【人物図鑑】余暇に研究〝的〟活動ができる、ユニークな〝ゆる〟ラボ法人が誕生

福岡大学商学部経営学科 准教授 森田泰暢

一般社団法人 ヒマラボ 代表理事
福岡大学商学部経営学科 准教授
森田泰暢

福岡大学商学部経営学科 准教授 森田泰暢
ヒマラボ 代表理事
森田泰暢

【もりた・やすのぶ】
兵庫県尼崎市出身、1980年生、甲陽学院高高校卒~京都大学農学部生物機能科学科卒~京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻修士課程修了、名古屋市立大学大学院経済学研究科経営学専攻博士後期課程修了。2005年株式会社インテリジェンスに入社、同社中部支社でキャリアコンサルタントを務めて、2011年清泉女学院短期大学国際コミュニケーション科講師、2014年九州産業大学経済学部経済学科准教授、2017年福岡大学商学部経営学科准教授に就任。現在の関心領域はサービスデザインとそれに係る人材育成、実践共同体、研究および探求のモチベーションやその体験。企業と連携した商品開発プロジェクトやリサーチ活動も手掛ける。2社会人と学生が混ざって研究的活動を楽しむ場として2017年12月、ヒマラボを立ち上げて、2019年5月に一般社団法人を設立して代表理事に就任。

【3Points of Key Person】

◎大学で活動していた研究的活動『ヒマラボ』を法人化
◎農学出身、キャリアコンサルタントを経て、人材育成を手掛ける
◎市民が誰でも好奇心を抱く当たり前の社会を実現していく

高校/大学以上・大学院未満、異色のゆるやかなラボが誕生

市民が本来、抱いている好奇心を失うことなく、探求心や研究的な姿勢を育みながら、市民自らが新たな知を生み出していく『創造社会』を実現していきたい」。
2019年5月、一般社団法人ヒマラボをFukuoka Growth Next内に設立して、代表理事に就任した森田泰暢・福岡大学商学部准教授は抱負を語る。

デザイナー、塾講師、プログラマー、社内SE、経営者ら社会人が学生と混ざり合いながら、月1回程度のペースで研究〝的〟な活動のコミュニティーとしてヒマラボが誕生したのは2017年12月のことだった。
ヒマな時間を生かして、単なる趣味やサークル活動よりも本格的なラボラトリー活動だが、本来の学術研究活動よりも〝ゆるい〟知的生産活動を行うヒマラボは、平日や土曜日などに開催してきた。

「多くの勉強会はインプット型なため、アメリカ発の最新ビジネスなどを学ぶ場合、それが生まれてから学ぶまでタイムラグが生じる可能性が高い。自社や自分自身の課題解決に向けて自ら取り組んでみる、あるいは自分の好きなコトをみつけて、調査・研究・発表の手法を学び、自ら新しい方法や理論、知識を生み出すという選択肢も増やしたい」と、森田代表理事は考える。
社会人をはじめオトナたちが、自らの興味や関心のあるテーマやコトについて調査や学習した内容を学生らも含めた老若男女の交じり合う多様な〝場〟で発表・報告やプレゼンテーションをしていくことが、ヒマラボの醍醐味の一つといえる。

ヒマラボでエンプロイヤー・ブランディング(働く場の価値)を研究した経営コンサルタントの場合、研究論文の読み方から学び、体系的に研究成果を修得して参加者向けに発表する一方、得た知見を本業にも生かし始めている。そして現在、同分野の専門家として、関連学会の設立に向けて東奔西走する。
また、謎解き・脱出ゲームを趣味とした学生のケースでは、脱出ゲームで出題される謎解きの内容や傾向に加えて、参加者の満足度を幅広く研究した。さらに自ら打ち立てた仮説を大学祭で実証実験した。現在は、一般向けに謎解きゲームを制作してイベントを作り上げ、学内にアナログゲームのサークル創設に向けて行動を続けている。

「ヒマラボは、高校/大学以上・大学院未満の立ち位置にある。今後、福岡の人たちの気質に合わせて楽しく面白い内容で、間口を広げていくことで、誰もがヒマラボに参加できるようにしたい。そして、豊かな社会を実現していくための一助になったら、うれしい」との思いを描く森田代表理事自身にとって、「子どもが産まれて守りたい存在を得たことで、遠い未来まで続く社会を良くしたい」と思い始めたことが、ヒマラボを始めるきっかけだったという。

社内研究所創設を志した大学院進学が人生の転機となった

大学農学部卒・大学院農学研究科(修士課程)修了⇒民間企業のキャリアコンサルタント⇒大学院経済学研究科(博士課程)修了⇒短大講師⇒大学准教授。
大学で教育と研究を手掛けながら、一般社団法人を立ち上げて、いわば〝二足のわらじ〟を履く森田代表理事自身も理系(農学分野)と文系(人事教育分野)、大学と民間企業というクロスオーバー的にキャリアを形成してきた。

「食品生物科学を専攻した大学院修了時がIT起業家の勃興期であり、大いに刺激を受けた。その一方で食品メーカー就職での研究職配属の確実性や魅力もあったが、社会を幅広く見ていく視点で総合人材サービス会社を選んだ」とする森田代表理事は入社後、キャリアコンサルタントとして転職希望者との面談を重ねた。そして、面談自体がマーケティング的にみると、ユーザーへのインタビュー調査であり、転職理由に関する一大データベースとなることに気づいた。

「当時、《何をやりたいのか》という問いに《教育と研究》と回答して、社内研究所を作ってみたいと考えていた。その頃のブログにも将来大学か研究所をつくりたいと書いていた」という森田代表理事は、従業員満足や人事評価などの研究に加え、ビジネス化も視野に入れて、働きながら経営学専攻の大学院博士課程へ通い出した。
進学後に到来したリーマンショックの影響もあって、面談で蓄積した転職関連データベースの活用が困難になって退職。博士論文の内容も方向転換し、『商品アイデア創造に関わる個人特性と組織特性の機能的関係』という論文で博士号を取得した。

大学院修了後に赴任した短大では、地元産品を用いた商品開発を依頼された。産学官連携で取り組む商品開発プロジェクトに学生も参画したPBL(問題解決型学習)として臨んでみると、学生の成長振りに目を見張った。そして、PBLの教員公募をきっかけに大学准教授として赴任、その後大学を移籍して今日に至る。
この間、教訓となった失敗としては、「PBLの一環として、学生と一緒に和菓子の製造販売のお店を博多駅に出したところ、大赤字で閉店に追い込まれた。事業をつくり出す大変さを痛感する一方、いつか自分自身でも事業体をつくりたいという思いもあったので、今回の一般社団法人設立は感慨深い」とのことだ。

ヒマラボは市民の好奇心のタネを生かすサポーター

今後、ヒマラボでは市民の研究活動支援、市民・企業向けの調査・分析活動や研究効果のアウトプット支援、研究者による市民向け講演・講座の企画運営などを手掛けていく。
森田代表理事は、「市民が、それぞれにテーマをもって、興味や好奇心にもとづいて、研究《的》な活動を日常の営みに添加していくのが理想形」とする。

今後、ヒマラボでは市民研究員も募集して、彼ら向けに勉強の仕方やテーマ設定のやり方などを教えていく考えだ。
「ヒマラボは何らかの好奇心を抱く人や背中を押してほしい人たちに気軽に加わってほしい。市民の方々が抱く好奇心のタネを生かして、誰でも研究できる機会と場、方法などの提供を通じてサポートしていきたいと、森田代表理事は呼び掛ける。

DATA

名 称:一般社団法人ヒマラボ
住 所:福岡市中央区大名2-6-11 Fukuoka Growth Next
設 立:2019年5月
代表者:代表理事 森田泰暢
事 業:市民および企業に対する調査・分析活動および研究効果のアウトプット支援、大学および研究所や民間企業所属の研究者による市民向け講演や講座の企画・開催、研究内容や研究活動プロセスの広報
URL:https://himalab.jp/

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