【人物図鑑】総計100万㎡の跡地活用・区画整理事業に〝編集脳〟で挑む建築士の〝場づくり〟

株式会社地域環境リノベーション計画 代表取締役 
九州大学跡地処分統括室跡地利活用部門 顧問
松口龍

地域環境リノベーション計画
代表取締役
松口龍

【まつぐち・りゅう】
東京都出身、1965年9月10日生、鹿児島大学工学部建築学科卒・東京大学大学院工学系研究科修了。1993年鹿島建設に入社、1999年鹿島出版会へ出向して、副編集長を務める。2004年鹿島建設九州支店に赴任。2011年鹿島建設を退職。2014年九州大学産学連携センター客員教授(~2016年)、2016年に地域環境リノベーション計画を設立して代表取締役となる。2017年九州大学共進化社会システム創成拠点COIプログラム客員教授(~2018年)、2018年九州大学跡地処分統括室顧問に就任。

【3Points of Key Person】

◎福岡都市圏で総計100万㎡の跡地活用・区画整理事業を担う
◎雑誌編集の経験を持つ1級建築士としてユニークな活動
◎面白いヒトたちがつながる〝第3の場〟で仕掛けていく

総計100万㎡事業スキーム=≪建築脳≫×≪編集脳≫

「建築の仕事は、受け身的で与えられた問題の解をとくことに終始しがちだ。これに対して、編集の仕事はネタを拾い集めて企画を立て、ヒトも巻き込んでいく〝攻め〟の仕事といえる」
建築士出身ながら、建築雑誌の編集経験をもつ松口龍・地域環境リノベーション計画代表取締役は、自らの仕事について《建築脳》、《編集脳》という側面からアプローチする取り組みもユニークだ。
開発実務を知った上で工事業者と打ち合わせができる点を生かして、発注者側の代理人ともいえるポジションで受注者である工事会社や建設コンサルタントらとの交渉窓口を務める。しかも企画段階からステージを変えながら、メンテナンスや更新まで一気通貫で対応できる点も強みだ。

地場大手企業の住宅部門が手掛けた約1ヘクタールにおよぶ戸建て住宅団地開発のコーディネート業務を皮切りに現在、筑紫野塔原土地区画整理事業(15㌶)、九州大学箱崎キャンパス(50㌶)、同大原町農場跡地利用構想(23㌶)、博多の森土地区画整理事業(11.3㌶)を手掛け、総面積で約100万平方メートルにおよぶ。
最近、区画整理事業においては公共空間の調査・管理運営を研究テーマとして、九州大学建築学科の研究室との産学連携で進めている点も特徴のひとつだ。このうち、博多の森土地区画整理事業の場合、準備組合と協働して区画整理の基本構想を描き出すという全国的にも珍しい試みも誕生した。

発注者サイドの〝代理人〟業務に活路を見出す

画像提供:福岡市

ゼネコン入社、系列出版社への出向、福岡移住、九大招へい……。
松口代表は自らの歩んできた人生において、この4つを主要なエポックメイキングと考える。
ゼネコン時代に手掛けた建築設計の仕事では、プロジェクトに関するお金とチーム人事に自分が関与できないことを実感した。

一度断った後に再び命じられた子会社出向で足を踏み入れた出版の世界において、「特集記事などの企画を立てて、登場人物をキャスティングすることでヒトを巻き込み、さらにお金も呼び込んでいく編集の醍醐味を味わった」
もっとも出向2年目に出版社のデザイン雑誌の休刊という事態にも直面した。その残務整理を終えて本社に復帰した後、両親の出身地でもある福岡に転勤した。

1999年にスタートさせたガソリンスタンドの再生プロジェクトなどを継続させながら、日々の設計業務に従事した後、2011年に退職。無為の日々を送っていたときに偶然、前職の先輩から引き合わされた紹介先と業務委託契約を結ぶ。
そして、最初に手掛けたのが、先述の戸建て住宅団地開発プロジェクトだった。
地場大手企業の住宅部門においては、発注業務を〝不動産の素人〟である親会社出身者が担当していた事情もあって、最初に打診された仕事は発注者側の〝代理人〟ともいえる発注業務のコーディネーター役だった。
想定外の展開に戸惑ったものの、「未経験を承知の上で胆力を込めて〝やります〟と言い切った」。そして、相手の期待以上のパフォーマンスを挙げるべく汗を流した結果、評判が評判を呼び、案件依頼が相次いで舞い込むようになった。

一連の業務を通じてコーディネーター役が向いていると自覚した松口代表は、「発注者サイドの〝代理人〟という新たな立ち位置を見出した」と述懐する。
もっとも、新たな道が開けたとはいえ、必ずしも順風満帆ではなかった。巨額が動く不動産開発の現場においては、汗を流さずに儲けようとする輩や小判サメ商法的なインチキに走る者も多いのも事実だ。
彼らが手掛けた不動産開発プロジェクトのほとんどは暗礁に乗り上げて、日の目を見ずに消えていく様を目にして「一緒に仕事をする人間を見極めないと、プロジェクトが具体的かつ健全に動き出さないことを実体験で学び、大きな教訓となった」と謙虚に振り返る。

建築脳での〝場〟デザインがヒトとコトを編集する

画像提供:福岡市

「九州はヒトのつながりもコンパクトであり、福岡らしいアクティビティを創り出せる」と考える松口代表にとって、ヒトとの出会いの場は、酒場というケースが多いそうだ。
グラスを傾けながら知り合って4、5年後に相談の電話が架かってきて当初、相談相手的な顧問として関わることが多いという。
そして、具体的な案件として動き出した段階になって、プロジェクトの発注者側のコーディネーター役に関与していくスタイルだ。

いま、松口代表が新たにチャレンジしようとするのは、建築家としての視点やセンスを生かしながら〝場〟をデザインして、ヒトやコトとの出会いやつながりを編集していく試みだ。
「ワークプレイス(仕事の場)、サロン(交流の場)、ラボ(研究の場)の三要素を兼ね備えた〝第3の場〟サードプレイスを介して、リアルに面白いヒトたちがつながっていく仕掛けをつくっていきたい」と思い描く。
新たな挑戦の原風景は、自身の学生時代にあった。大学の研究室(ラボ)で研究に没頭する父、自宅で開いたピアノ教室をサロンとして多彩なイベントを催して仲間が集う母のもとで生まれ育った松口代表は高校時代に建築家にあこがれた。
そして、高校の同級生らと語り合った夢の一つが将来、建築事務所を構えたビルの1階にカフェを設けて、仲間が集う打ち合わせの場をつくることだった。
いま、博多駅前のオフィスビルの一角に一級建築士事務所を構えた松口代表は、「いろいろな人たちが集まって来て、議論ですることが〝場の力〟となって、新たなプラットフォームになり得る」と意欲をみせる。

「離れて立つ」――。場づくりに際して松口代表が心に刻む言葉は、ピアノ教室を営むフリーランスのピアニストだった母親からの教えだった。
そんな松口代表が尊敬する人物として挙げるのは、ドイツを代表する文豪であり、自然科学者、政治家、法律家でもあったゲーテだ。「彼は文学を基軸にして、自由に広範な世界へリーチできたマルチプレイヤーだった」と評す。
いま、松口代表は建築士のセンスや視点を活かした場づくりを起点にして、ヒトやコトの出会いやつながりを編集して、サードプレイス創出にリーチしていく。

DATA

名 称:株式会社地域環境リノベーション計画
住 所:
福岡市博多区博多駅前3-19-14-6F A1号
設 立:
2016年
代表者:代表取締役 松口龍
事 業:
一級建築士事務所

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