【人物図鑑】勅祭社の神職と現代アート作家との〝二刀流〟で新たな価値を創出

香椎宮 権禰宜 
現代アート作家 木下英大

香椎宮 権禰宜
現代アート作家 
木下英大

【きのした・ひでお】
1980年生。福岡市東区出身。西南学院高校卒~東京造形大学造形学部卒。卒業後、フリーランスとして、創作活動を始める。2010年4月、國學院大学神道文化学部専攻科に進学して2011年3月、同専攻科を卒業。2011年4月、香椎宮に奉職して権禰宜を務める。2014年2月と2020年12月、TEDxFukuokaに登壇した。趣味はモノづくりと映画鑑賞、好きな言葉はフロンティア スピリット。

【3Points of Key Person】

画家志望の少年は、美術館の彫刻に感動して彫刻家を目指す

◎ 現代アート作家が勅祭社に奉職して神職とアートとの〝二刀流〟

◎ 祈りと表現の観点から神職とアートの〝二刀流〟で新たな価値創造

全国に16社ある勅祭社の1社・香椎宮の権禰宜は現代アート作家

香椎宮 権禰宜 
現代アート作家 木下英大

日本全国にある神社は8万570社だ(文化庁編『宗教年鑑令和7年版』)。
都道府県別での第1位は新潟県の4,657社、第2位は兵庫県の3,858社、第3位は福岡県の3,403社となっている。

全国に8万社余りある神社の中でも、天皇からの勅使を迎えて勅祭を執り行う勅祭社は全国に16社あり、香椎宮はその1社だ。
九州では、八幡宮の総本社である宇佐神宮が香椎宮とともに勅祭社に列せられており、香椎宮と宇佐神宮には勅使が10年ごとに訪れる。

「香椎宮は、天皇家ゆかりの格式と風格を持つ古社であり、地域の方々から広く親しまれ、愛されている」
「仲哀天皇と神功皇后を主祭神とする香椎宮は、もともと天皇の廟であり、神功皇后からのご神託を受けて724年、勅命によって創建された」
香椎宮で権禰宜を務める木下英大さんは、神妙な面持ちで香椎宮の起源や由来を説明する。
権禰宜とは、祭祀や社務などの実務を取り仕切る禰宜を補佐する神職だ。

香椎宮で日々、神職として奉職する木下さんは、現代アート作家という顔も持つ。
大学で専攻していた彫刻をはじめ、写真や映像などを手掛ける木下さんが温めている構想の一つは、神道をテーマにしたパソコンゲームの開発だ。

「古事記や日本書紀における物語の構造に日本的な思想を感じた」
「その構造を生かした神道のゲームは今までなかったので、ゲームを介して古事記や日本書紀を身近に感じ、神道の本質に触れるきっかけになればうれしい」
そう語る木下さんは、日本でも例を見ないゲーム開発プロジェクトを立ち上げた経緯を明かす。
もっとも、前代未聞のプロジェクトは難航している。
神道の中でも、まずは神事のゲーム化に取り組んでいるものの、木下さんによると、「いつゴールが見えてくるのか、まだ分からない状況」とのことだ。

祈りと表現をテーマに神職と現代アート作家の〝二刀流〟

香椎宮 権禰宜 
現代アート作家 木下英大

子どもの頃から絵が得意で、画家になりたかったという木下少年は、小学校4年生の時に福岡市美術館で見た2体の彫刻に心を奪われた。
コンスタンティン・ブランクーシ作『空間の鳥』、アニッシュ・カプーア作『虚ろなる母』を見た感動から彫刻家を志した木下さんは、東京藝術大学彫刻科を目指した。
彫刻の魅力について木下さんは、「彫刻は、空間の中に立体的に存在することで、時間に与える影響が絵画よりも大きい」
「作品を見る前と見た後では、自分自身の心の持ちようも大きく異なってくる」と説明する。

結局、3浪して挑んだ芸大入試では願いかなわず、私立美大へ進学した。
美大では、彫刻に限らず、さまざまな表現活動に取り組んだものの、留年してしまう。
退学を考えていた矢先、恩師の厚意と仲間らの熱意によって大学卒業の資格を得た。

大学卒業後、アルバイトをしながら木下さんは、自宅兼アトリエでの作品制作に打ち込んだ。
「自分の人生が駄目になるかもしれないという覚悟で選んだ道だった」とする木下さんは、「人に見せるような作品ではないと思っては作り、壊していく日々を過ごした」と振り返る。
創作活動に行き詰まっていた折、もともと香椎宮の神官の家系だった木下さんのもとへ、親戚から香椎宮の神職を勧める電話があった。
「最初は、自分のプライドから断っていたものの、『表現とは何か』と真剣に悩む中で、何らかの祈りが表現そのものだと気付いた」
そして得心した木下さんは、神職の資格を得るために國學院大学神道学専攻科へ1年間通った。

修了後、地元・福岡に戻り、香椎宮の神職として奉職を始めた。
そして、神職と現代アート作家という、異例の〝二刀流〟の使い手となる。
2012年1月、それまで撮りためた写真を用いて、神道的な経験を基にしたアート展示の個展を開催した。
個展のオープニングイベントでは、自ら袴姿で神事を執り行い、DJがいる空間でダンサーが踊りを披露し、さらに住職によるライブ書道も行われた。

「神職なのに現代アートをやっている変わった奴がいると知られ、物珍しがられるようになった」と、にこやかに語る木下さんは2014年2月と2020年12月の2回、「知的な18分間スピーチ」で知られる『TEDx』にも登壇した。
そして、袴姿で祈りと表現について語る木下さんの姿は、インターネットを通じて全世界へ配信された。

「祈りを形にしようとしていくと、表現になる」

香椎宮 権禰宜 
現代アート作家 木下英大

「神職として祝詞を詠むことが多い中、静謐なのに大きく広がっていく感覚で祝詞を詠めた経験がある」
「その瞬間、良い祈りとは誰かのために祈ることであり、祈りそのものが分かったような気がした」
「他人のために祈ることは善い祈りであり、世界が良くなっていく」
祈りと表現という観点から創作を試みる木下さんは、「祈りと表現は、表裏一体だ」「祈りを形にしようとしていくと、表現になる。祈りを知れば知るほど、表現も豊かになっていく」との持論を説く。

悠久の時間が流れる神社での祈りの中から、今後、現代アートはどのような表現を見いだしていくのか。
祈りと表現をテーマにした木下さんの神職と現代アート作家という〝二刀流〟への期待は高まる。

DATA

名 称:香椎宮
住 所:福岡市東区香椎4-16-1
創 建:724年(神亀元年)
代表者:宮司 足立憲一
備 考: 廟(香椎廟)、旧官幣大社、勅祭社、別表神社
URLhttps://kashiigu.com/

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