【人物図鑑】新たな市民参画型の〝まちづくり〟をリビングラボで創出していく
福岡地域戦略推進協議会
マネージャー
片田江由佳
【かたたえ・ゆか】
福岡市出身、1986年生、福岡大学工学部建築学科卒~東京理科大学大学院理工学研究科建築学専攻修了。2013年株式会社産学連携機構九州に入社。公・民・学連携によるまちづくり拠点『アイランドシティ・アーバンデザインセンター』において、公共空間の創造的な利用促進など都市開発におけるコミュニケーションデザインを手掛ける。2017年に公益財団法人福岡アジア都市研究所に入所して、福岡地域戦略推進協議会(FDC)に参画。市民共創のリビングラボをはじめ、まちづくりやヘルスケア領域などを担当する。著書に『シビックプライド2―都市と市民のかかわりをデザインする(シビックプライド研究会編著・2015年)』。福岡ピクニッククラブ共同主宰。
【3Points of Key Person】
◎リビングラボを用いた市民参加型のまちづくりを手掛ける
◎建築専攻からシビックプライドに基づく協働のまちづくりへ
◎リビングラボによるまちづくり活動のヨコ展開を図る
いま注目のオープンイノベーションを起こすリビングラボとは
近年、企業が新たな技術やサービスを開発していく上で、他の企業や団体と協働していく、オープンイノベーションと呼ばれる手法が注目を集めている。
2000年頃からヨーロッパ、特に北欧で盛んになったオープンイノベーションにおいては、市民や消費者らも参画する活動拠点や活動自体を『リビングラボ』と呼ぶことが多い。
「リビングラボは、生活者がサービスを共創するパートナーとして、企業や行政、大学と連携して、より満足度の高い新商品の開発や新サービスを創出していく手法。市民参加型の共創活動であるリビングラボは、都市と市民の新たな接点となって、新たな気づきやアクションを生み出していく」と、産官学民の連携組織である福岡地域戦略推進協議会(FDC)の片田江由佳マネージャーは解説する。
FDCは、市民力を福岡の成長の源泉に位置づけて、様々なプロジェクトでリビングラボに取り組んでいる。商品開発やサービスの創出に留まらず、まちづくりにおいてもリビングラボの手法を適用しているのが特徴だ。具体的な事例としては、『壱岐市生涯活躍のまち推進プロジェクト』が挙げられる。
まち・ひと・しごと創生本部が打ち出した『生涯活躍のまち(CCRC)』づくりとして、壱岐市が手掛けた『壱岐市版CCRC』事業では、福岡都市圏などからの移住者や地域住人が生涯、健康で活躍できる仕組みづくりでリビングラボの手法を用いた。
「市民自らによる空き家リノベーションや官民連携による移住相談と空き家活用のワンストップサービスなどが立ち上がった。市民と行政とのつなぎ手や調整役、時として翻訳者の立場でFDCが支援することで地域に好循環を生むことを狙った。関わられた市民の方々が、ビジョンに共鳴して、新しいチャレンジを始められ、『チーム片田江の一員としてやらなきゃと思えた』と言われたときは、後押しになれたと非常に嬉しかった」。
担当者の片田江マネージャーはにこやかだ。
建築家志望の学生はなぜ、リビングラボの使い手になったのか
片田江マネージャーが建築家になることを決めたのは、小学生の時だった。家をはじめとする建物に興味を抱いていたことに加えて、大工になりたかったという医師だった祖父からの「医者は悪くなってから治すが、建築家は悪くなる前に防ぐことができる」という言葉も幼き日の背中を押した。
子どもの頃、福岡市郊外で育った片田江マネージャーは、「実家は5軒の家が空き地を囲む袋小路にあり、大人子供15人でバドミントンするほど大変仲良しなコミュニティ。しかし、行政区分上での〝目に見えない線引き〟によって、実は二つの自治体に引き裂かれているという事実を知った時に子ども心ながら、大きな違和感を覚えた 」ことが自身にとって、大きな原体験となった。
人が使う空間を志して、大学で建築学を専攻した片田江マネージャーにとって、建物が作品として、人気の無い竣工写真で評価される点は戸惑いを覚えた。
悩み多き学生時代に偶然、手に取ったのが『シビックプライド』というタイトルの本だった。都市に対する市民の誇りであり、自らの地域を良くするために自分自身が関わっているという当事者意識に基づく自負心ともいえるシビックプライドの概念に共鳴した片田江マネージャーは、著者である伊藤香織教授が研究室を構える東京理科大学大学院理工学研究科建築学専攻へ進学した。
大学院在学中に出会った活動の一つが、ピクニック だった。現在、『福岡ピクニッククラブ』の共同主宰である片田江マネージャーは、「公園だけでなく、ビルの屋上や公開空地、グレーゾーンも試す。思い思いに料理や音楽を持ち寄って場をつくり、まちのムードを高める。シビックプライドを研究する者として、自分自身も一市民としてできることを実践したい。まちを使いこなすトレーニングとして楽しんでいる」と、ピクニックの魅力を語る。
都市空間と市民との関係を考える上では、公民学連携のまちづくり推進組織・施設『アーバンデザインセンター』の総本山である柏の葉アーバンデザインセンターが大学院キャンパス近くにあり、片田江マネージャーは演習を受講していた。地元・福岡での設立計画を知った片田江マネージャーは、設立スタッフとして名乗り出て、アイランドシティ・アーバンデザインセンター(UDCIC)の本格始動と同時に働き始めた。
「UDCICは、アイランドシティの情報発信をはじめ、まちづくりに関わる人たちが集っての連携・交流する場を担っていた。UDCICで携わった、まちの楽しみ方や住民の思いを活性化していく取り組みは、現在のリビングラボの取り組みに生きている」と、片田江マネージャーは振り返る。その後、片田江マネージャーは、福岡市の自治体シンクタンクである福岡アジア都市研究所に転じて現在、FDCに参画している。
市民、行政、企業の好循環で福岡はもっと魅力的なまちへ
約2年間、壱岐に通い続けた片田江マネージャーが直近の目標とするのは、「壱岐におけるリビングラボの経験を研究としてまとめることで他地域に向けたヨコ展開も実現していく」ことだ。
さらに年内をめどにシビックプライドに関する海外調査を実施して、新たな知見や最新の知識も得ていく考えだ。「より良い地域づくりに向けて、市民力は、今後ますます重要になっていく」と考える片田江マネージャーは、「市民の想いやアクションと、行政の施策や企業の活動を組み合わせて、新たな好循環を生み出していくコーディネーターでありたい。大好きな福岡がもっと魅力的なまちになっていくための下支えを今後も取り組んでいきたい」と、瞳を輝かせる
DATA
名 称:福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.)
住 所:福岡市中央区天神1-10-1市役所北別館6階
設 立:2011年4月
代表者:会長 麻生泰
事 業:福岡地域の成長戦略の策定から推進までを一貫して取り組む
URL:http://www.fukuoka-dc.jpn.com/
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