【人物図鑑】九州産緑茶を海外へ伝え広めながら、日本とスイスとの友好に尽力

一休合同会社 アソシエイト 
在福岡スイス名誉領事館 名誉領事
ジョエル・サムブク ブロイゼ

ジョエル・サムブク ブロイゼ
1978年11月生、スイス・ジュネーブ出身。2006年に大学院で法学博士を取得。2002年に新婚旅行で日本を訪れる。その後、2009年に親子3人で来日して、東京大学でポストドクターを務める。2011年に福岡市へ移り住む。2014年8月に日本茶のおいしさに魅了されて2017年1月、3人の創設者と共に九州茶の海外向けオンライン販売や輸出業務を手掛ける一休合同会社を設立。マーケティングをはじめ渉外や法務などを担当する。2022年11月、在福岡スイス名誉領事館の開設に伴って名誉領事に就任。趣味は合気道、読書、ウォーキング。


 

【3Points of Key Person】

九州茶の海外向け販売や輸出の会社を夫婦で共同経営
◎ 新婚旅行で〝日本に恋〟して、2009年に親子3人で来日
◎ 在福岡スイス名誉領事館の開設に伴い、名誉領事に就任

「九州産緑茶には、海外向けのビジネスチャンスがある」

【画像】ふくおか人物図鑑

日本初の本格的な禅寺である聖福寺(福岡市博多区)を創建した栄西は、日本での茶栽培を背振山で始め、日本初の茶専門書『喫茶養生記』も著し、茶祖と呼ばれる。
九州のおいしいブランド茶を福岡の地から世界へ紹介していきたい━━。福岡市を拠点にスイス人夫妻が経営する一休合同会社は、九州産緑茶の海外輸出会社だ。

一休合同会社では、夫のアルド・ブロイゼさんがデザイン全般やWeb関連、制作物関係を担当する。
一方、妻であり、法学博士の学位を持つジョエル・ブロイゼさんは、マーケティングリサーチや交渉・渉外、法務・契約などを受け持つ。
「日本茶のおいしさと出会い、マーケティングリサーチをしてみたところ、海外向けビジネスの可能性を感じた。九州産ブランド茶が海外で知られていないことは逆にビジネスチャンスであり、これまで培ってきたスキルやノウハウ、経験、マーケティング力を通じて、お茶農家をサポートしていこうと決心した」
ジョエルさんは、一連の経緯を語る。
2017年設立の一休合同会社では、夫唱婦随で九州産ブランド茶の海外顧客向けオンライン販売や茶葉輸出を手掛けている。

福岡県の八女茶、佐賀県の嬉野茶、長崎県の東彼杵茶、鹿児島県の知覧茶や霧島茶……。
九州各地のブランド茶を取り扱う同社では、約20の生産農家や製茶会社から約110種類もの茶葉を取り扱っている。
取引先とのコミュニケーションも重視し、日々のメール連絡に加えて年に1〜2回、茶畑や現場へ足を運ぶ。
そして、カナダやアメリカ、EU、シンガポール、香港など海外在住の富裕層を対象にしたオンライン販売に加えて、世界各地のお茶専門店やレストラン向けに茶葉を輸出している。

因みに社名である『一休』とは、お茶を飲んで楽しむことでの文字通り「一休み」を意味することに加え、侘び茶の祖である村田珠光の師だった一休宗純に由来する。
スイスから日本に移住して15年目、福岡へ移り住んで13年目を迎えるアルド・ジョエル夫妻の取り組みは、スイス政府からも評価されて2022年11月、オフィスの一角に在福岡スイス名誉領事館が誕生した。
日本では、東京にスイス大使館、大阪に同総領事館があり、スイス名誉領事館は日本国内で初の設置だった。

日本映画に魅了され、新婚旅行での訪日で「日本に恋した」!?

【画像】ふくおか人物図鑑

スイス出身のアルド・ジョエル夫妻は2002年、新婚旅行で日本を初めて訪れた。
来日前から巨匠の小津安二郎監督や黒澤明監督による日本映画のファンだった。
そして、銀幕越しに見てきた日本は、二人にとって憧れの地でもあった。
5週間にも及ぶ日本でのハネムーンでは、九州・沖縄の各地も訪ね歩いた。
「日本とは、フィーリング的にすごく合った。日本の文化や自然、人々の優しさ、オープンな気持ちで受け入れてくれるホスピタリティが印象的だった。すっかり日本に恋をしたので、まさに人生の転機だったと思う」
ジョエルさんの表情から笑みがこぼれる。
そして、オフィスの壁には、カメラマンでもある夫アルドが初来日時に撮影した白黒写真の数々が作品として展示されている。

その後、アルド・ジョエル夫妻は2006年、2007年にも来日し、「日本で仕事をしたい」との思いが募っていく。
大学院で法学博士を取得後、法曹界で働いていたジョエルさんは、国際法の研究を続けていた。
そうした中、ベルン大学の恩師からの縁で東京大学でのポストドクターの職を得た。そして、2009年7月、夫と生まれたばかりの息子の親子三人で来日した。
最初、ジョエルさんは東京に居を構えて、東大で国際法の研鑽を積んでいく。
一方、夫のアルドさんはイタリアからの食材輸入業を手掛けていた。
また、駐日スイス大使館では、日本市場の専門家として市場調査やコンサルティングも手掛ける。

2011年3月11日、東日本大震災が一家を襲った。
アルド・ジョエル夫妻の元にもスイス政府からの避難勧告が届いた。
「わずか一晩で決断を迫られる状況下、ビジネスパートナーが住む福岡への移住を決めた」ことをジュエルさんは明かす。
「福岡移住は緊急処置であり、ある意味偶然だった。しかし、福岡に住んでみて、すっかり福岡が大好きになった。福岡は住んで楽しく幸せな上に国内外への移動が便利だ。そして、経済的にも発展し続けている」とするジュエルさんは来福後、西南学院大学と中村学園大学で教鞭を取り始めた。
一児の母でもあるジョエルさんは、福岡市について、「子育て支援が素晴らしく、本当に感謝している。息子は、保育園から中学校まで公立校に通っていたので、福岡市における公教育の質的な高さを実感した」と、目を細める。

福岡に移住して4年目となる2014年8月、アルド・ジョエル夫妻は、鹿児島県南九州市を友人らと訪ねた。
そして、現地で味わった知覧茶のおいしさに魅了される。
その後、約3年間の準備期間を経て、他の夫婦(スランス人と日本人)と共同で設立した事業会社が、一休合同会社だ。
「私たち外国人が、異国の地でビジネスを立ち上げて会社を経営していくこと自体、並大抵のことではない。しかし、いろんな方々からの力添えやご縁があったので、いままでやって来れたと思う」
ジュエルさんは、謙虚に心情を発露する。




スイスと日本の国交160周年、両国の〝架け橋〟として尽力

【画像】ふくおか人物図鑑
世界遺産である首都ベルンの旧市街(出典:Wikipedia『スイス』)


永世中立国として広く知られるスイスは、ヨーロッパ中央部に位置し、ドイツやフランス、イタリア、オーストリア、リヒテンシュタインに囲まれた内陸国家だ。
世界銀行の統計によると、スイスの2023年の1人あたり購買力平価GDPは、世界8位の9万2,980ドルだった。
一方、日本は同46位の5万207ドルとなっている。
「今年2024年は、スイスと日本が国交を結んで160周年という節目の年だ」と説明する、名誉領事のジョエルさんは、「スイスと日本の架け橋として、今後も活動していきたい」と、朗らかな表情をみせる。

「アルプスが華麗に輝くとき、主に祈りを捧げ汝にひれ伏さん」(スイス国家『スイスの賛歌』)

DATA

名 称:一休合同会社
住 所:福岡市早良区野芥8-29-7
設 立:2017年1月
事 業:九州茶の海外向け販売や茶葉輸出など
URLhttps://ikkyu-tea.com/

Follow me!