【人物図鑑】福岡・天神の先駆的なまちづくりのタネが東京・渋谷など各地で花開く
リージョンワークス合同会社
代表社員
後藤太一
【ごとう・たいち】
東京都出身、1969年生、東京大学都市工学科卒、カリフォルニア大学バークレー校都市地域計画学科修了。1992年鹿島建設株式会社に入社、建築設計本部プランニング部に配属。1997年アメリカ・ポートランド都市圏自治体メトロへ出向、成長管理局でエグゼクティブプランナーを務める。1999年株式会社アバンアソシエイツへ出向(計画本部主査)。2003年公益財団法人福岡アジア都市研究所へ出向となり、生活の拠点を東京から福岡へ移す。2006年福岡新都心開発株式会社に入社、事業部長に就任。福岡地域戦略推進協議会事務局長などを経て、2014年5月リージョンワークス合同会社を設立、代表社員に就任。
【3Points of Key Person】
◎福岡・天神の先駆的なまちづくりを東京・渋谷など各地へ伝道
◎空間から経済、文化へ――。まちづくりや地域活性化の深化を図る
◎中小都市の活性化や生活地での自治などに全力投球していく
福岡・天神と東京・渋谷を結ぶ再開発事業での不思議な縁
福岡市・天神で新たな空間と雇用を創出する『天神ビッグバン』、成長戦略の策定から事業推進までを産学官民で取り組む『福岡地域戦略推進協議会』(FDC)、更新期を迎えた天神明治通りの地権者で組織した『天神明治通り街づくり協議会』(MDC)、福博の水辺空間を活用した市民の賑わい・憩いの拠点『水上公園』、日本都市計画学会賞石川賞に輝いた福岡・天神でのエリアマネジメント……。
これらの福岡で誕生した先駆的なまちづくりの仕組みや取り組みは、いま日本各地へ広がりをみせている。「破壊と創造をしながら時代が移行していく中、起源となったタネは次世代においても確実に生きている」と、リージョンワークス合同会社の後藤太一代表社員は、感慨深く語る。FDCやMDCの事務局長などを歴任した後藤代表は、これらの事業の仕掛けや立ち上げに関わってきた実績を持つ。
福岡発のまちづくりの仕組みや取り組みが広がる中でも最も活発に動いているのが東京都渋谷区だ。
世界的に注目される新たなビジネスやカルチャーを発信していく『ちがいを ちからに 変える街。渋谷』を目指す東京・渋谷では、渋谷駅周辺において大規模な再開発プロジェクトが進む。
その一方で、官民連携による渋谷川の再生や^歩行者空間の整備・活用、エリアマネジメントなどの取り組みを通じて、居心地の良いまちづくりを目指している。
一連のプロジェクトにおいては、経済開発戦略『渋谷計画2040』を策定した渋谷再開発協会、渋谷区が複数の企業と設立したオープンイノベーションのための産官学民の連携組織『一般社団法人渋谷未来デザイン』、渋谷駅周辺のエリアマネジメントに取組む『渋谷駅前エリアマネジメント協議会』や都市再生推進法人『渋谷駅前エリアマネジメント』などが、渋谷での新たなまちづくりで重要な役割を果たしている。
「地域の未来を切り開くプロジェクトを、主に民間セクターとともにデザインしている。世界は地域のネットワークから成り立っており、地域が良くなることと事業の成功は両立できる」との見解を示す後藤代表は〝黒子〟役として、一連の仕組みを後方支援している。
「民間主導のプロジェクトを地域の戦略とともに企画・デザインから推進までを一貫して担うべきだと考える」とする後藤代表がトップを務めるリージョンワークスもユニークだ。
東京や福岡など大都市での産学官民連携による産業振興や新たな公共空間の創出、福井や久留米など中都市でのエリア・リノベーションや新たな地方不動産投資スキームづくり、さらに神山(徳島県)など小地域での農食循環の公的民間事業を手掛け、〝大・中・小〟のスケールに応じたまちづくりや地域活性化に取り組んでいる。
米国留学で多様性の意義を知り、ダメ出しの失敗から学ぶ
空間から経済、そして文化へ――。長年、まちづくりや地域活性化に取り組む後藤代表は、これまでの歩みを大きく3つのステージに分けて考える。
最初、大手建設会社に入社して空間設計を手掛けた後藤代表は阪神淡路大震災をきっかけに空間をつくる社会の仕組みに関心を寄せるようになった。
その後のアメリカ留学やオレゴン州ポートランドの都市圏政府メトロでの出向経験を通じて、社会の仕組みの中でも経済価値に根差したまちづくりを手掛けるようになった。
そして、福岡で産学官民によるまちづくりや産業振興を手掛けて、FDC事務局長を退いた後は、文化がまちづくりに果たす意義について関心を寄せた。
「おいしいものを食べて飲み、楽しく人と語らい、笑うことが幸せである。食べる・飲むとは地域の個性そのものであり、個性的な文化は経済価値に勝る。文化や個性を大切にするヒトこそが、世の中を良くしていく」と、後藤代表は力説する。
天命を知る年代に達した後藤代表が自らの転換点として挙げるのは、アメリカ留学だ。
「日本を出たことが大きかった。アウェー感や孤独感などを感じながらも、モノサシがひとつでなく、いろいろな価値観があることを知った。世の中の変化や差異は基本的に微々たる違いでしかなく、どんなヒトやどんなまちも受け止められる心構えができた」と、目を細める。
留学当初、日常会話でも不自由した後藤代表だが、卒業目前には『最もパワフルなプレゼンテーション賞』という賞をもらうまでに成長した。
そして、当初は口もきいてくれなかった米国人同級生からも褒められた経験から、《認められることは、受け入れられたことだ》と実感したという。
その後、香港に招かれて人生初の英語での基調講演に登壇した。近年では旧ソ連のラトビア共和国から毎年、基調講演の講師として呼ばれ、《新しい風を持ち込んでくれるキーマン》との評を得るそうだ。
その一方で教訓となった失敗として、ある地域活性化プロジェクトにおいて、途中で仕事を切られたことを挙げる。「頭でっかちで自分の価値観を相手に押し付けてもダメだ。苦労している地域の人たちへのダメ出しでは、彼・彼女らからのやる気を引き出せないことを、身をもって学んだ」と、後藤代表は謙虚に語る。
中小都市の活性化や生活地での自治などに挑戦し続ける
「いろんな地域が持続的に発展していく上でヒトが重要だ。プロのヒトを増やしていくためにも、そのような職能を生かしていく人材市場をつくっていきたい。そして、社会的に大事な仕事にも関わらず、皆がやりたがらない仕事をやっていく」と、後藤代表は決意をあらたにする。
具体的な取り組みとして、大都市に比べて資本やヒトなどの面で著しく不利な中小都市の活性化や、従来手掛けていた商業地・業務地区に加えて新たに生活地における新しい自治の仕掛けづくりにもチャレンジしていく考えだ。
「地域の活力は、地域のヒトたちの活動が起点になっている。単なるアイデアや企画提案だけでなく、実体となる価値づくりに向けて現場で共に汗を流しながら、地域の担い手である民間プレイヤーを応援していきたい」と、大濠公園を目の前に控えたオフィスで語る後藤代表はいま、新たなステージへ駒を進める。
DATA
名 称:リージョンワークス合同会社
住 所:福岡市中央区大濠公園2-35 The Apartment 612
設 立:2014年5月
代表者:代表社員 後藤太一
事 業:地域の未来を切り開くプロジェクトのデザイン
URL:https://regionworks.com/
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