【人物図鑑】子どもの空間づくりを核に人間本来の〝巣づくり〟本能復活に挑む伝道師

【画像】一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事 建築家 遠藤幹子

一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事
建築家
遠藤幹子

【画像】一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事 建築家 遠藤幹子
一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事
建築家
遠藤幹子

えんどう・みきこ】
1971年4月21日生、横浜市出身、フェリス女学院高校卒~東京芸術大学美術学部建築科卒。就職して結婚後、オランダへ留学、ベルラーヘ・インスティュートで学ぶ。オランダでは良質な公共デザインに接しながら、出産・子育てを経験する。帰国後、2003年に一級建築士事務所office mikikoを設立。2013年に一般社団法人マザー・アーキテクチュアを設立して代表理事に就任。住宅設計をはじめ、店舗などの空間設計に加えて、大人も子どもも《みんなが創造力を育める場づくり》をテーマにした公共施設・文化施設、商業施設などの空間デザインを多数手がける。2011年からザンビアで妊産婦死亡をなくすためのマタニティハウスの建設プロジェクトを住民参加型で取り組む。


【3Points of Key Person】

◎子どもたちの空間づくりの専門家として公共・文化施設を多数手がける
◎アフリカでの出産施設やNHK番組セット、福岡市科学館も手掛けた
◎建築業務に加え、美術系作家としての活動やモノづくりに取り組む

アフリカで出産施設を手掛け、NHK番組や科学館なども担当

【画像】一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事 建築家 遠藤幹子

《人が育ち、未来をデザインしていく科学館》として2017年10月に開館した福岡市科学館は開設8カ月目で来館者100万人を突破するなど、当初の想定を大きく上回る人気施設になっている。
子どもも大人も誰もが科学を楽しめる施設としても高い評価を得ている福岡市科学館の空間デザインやアートディレクションを担当した建築家の遠藤幹子・一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事は、「誰でも創造する力を持っており、本来備えている〝巣づくり〟をする力を蘇らせる伝道師でありたい」と、優しいまなざしで語る。

子どもたちの空間づくりの専門家として知られる遠藤代表は、公共施設や文化施設、保育・教育施設などの空間デザインやディレクションなどを数多く手掛けてきた。
また、乳児を持つ親にとっての人気番組であるNHK Eテレ『いないいないばあっ!』のスタジオセットのデザインを掛けた実績もある。

また、雑誌編集者から紹介された国際協力NGO『公益財団法人ジョイセフ』の担当者とともにアフリカ南部のザンビア共和国を訪れた遠藤代表は、出産施設のない無医村での出産死亡率が日本の40倍に上るという現実を目の当たりにした。
そして、現地において日本をはじめとする先進国からの支援物資を運んで来た用済みのコンテナを活用した出産施設づくりに乗り出した。
「いまでもインパクトがあり、先駆的なアイデアだったと思う」と振り返る遠藤代表は、リユースしたコンテナハウスに現地で伝統的なレンガ造り工法を融合させた『ザンビアのマタニティハウス』の建設では、住人も一緒になってレンガ積みや外観装飾などで一緒に汗を流した。
さらに口頭で伝える文化事情を踏まえて、「歌と踊りで現地の人たちにデザインの仕方などを教えて、ザンビア各地の農村へ広めていった」と語る遠藤代表は、「住民たち自身で完成させた建物であり、愛着をいだきながら、モチベーションが高まっていった」と、ほほ笑む。


オランダ留学を経て、子どもの空間デザインで一転風が吹く

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仏文学を研究する父とピアノ講師の母を両親に持つ遠藤代表は、子どもの頃から音楽や本に囲まれて、モノづくりにも興味を抱きながら育った。
バンド活動に打ち込む一方、とび職にも憧れたという多感な少女時代を過ごした遠藤代表は、「美大系の建築へ進学すれば、やりたいことを全てやれる」と、東京芸術大学美術学部建築科卒へ進学した。
卒業後、アルバイト先だった会社に就職して、上司の男性と結婚した遠藤代表は夫婦でオランダに渡り、留学生として建築学を学んだ。
「オランダは比較的留学しやすく、教授陣も世界中から客員として招かれて教えに来ていた」と語る遠藤代表は現地で妊娠・出産を経験した。4年に及びオランダ滞在では、市民が公共施設のデザイン設計や運営などに参画していく姿に感銘を受け、「良質で多様なデザインの公共空間が多く、オランダ暮らしは快適な日々だった」と目を細める。
卒業後、現地で建築家として活動を始めた遠藤代表だったが、夫婦間の方向性の違いに気づき、離婚という選択肢を選んで娘連れで帰国した。

「最初の3~4年は仕事も子育てもワンオペ状態で大変な中、ガムシャラに仕事をした」という遠藤代表は帰国後、建築事務所を立ち上げた。京都の住宅設計では、娘を保育園に預けている間に東京〜京都を新幹線で往復して仕事を進めるという日々も送った。
大掛かりな建築作品を手掛けたいとの思いもあった遠藤代表だったが、コンペ参加へのチャンスももらったものの、時間不足に加えて力不足も補えずに悔しい思いを重ねた。
そして、NPO法人や子育てサークルなどから相談された子ども向けの空間デザインを細々と手掛けながら、遠藤代表は「日本では子育てをしながら、本当にやりたい仕事ができないのかと、自分自身でもがき続けた」

そんな中、気づけば美術館や大手不動産会社から「親子にとって居心地の良い空間を」との依頼を受ける立場になり、 子育て経験を持つ一級建築士として、子ども向けの空間デザインという仕事は、輝きを帯びた仕事だと思えるようになった。
「私が本当にやりたかった仕事は、みんながスクスク育ち、できるようになる空間づくりで〝一石三鳥〟だった」と自覚した遠藤代表は2018年5月の母の日に一般社団法人マザーアーキテクチャを法人化した。
子ども向けの空間づくりをはじめ、《みんなが創造力を育める場づくり》をテーマにした公共・文化施設、商業施設の空間デザインを多数手がけ、さらにNHK番組やザンビアへと活動の場を広げた。
そして、福岡地域戦略推進協議会の『イノベーションスタジオ福岡』の講師に招かれたことが縁になって福岡へ通い出した遠藤代表は、福岡市科学館の空間デザインに関われた縁もあって2018年10月、福岡へ移り住んだ。


人間本来の〝巣づくり〟本能が人々の創造力を開花させる

【画像】一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事 建築家 遠藤幹子
『アート・プレイグラウンド あそぶ PLAY』 Photo by Yasuko Okamura (C)あいちトリエンナーレ実行委員会

来場者自らの発想や感性で段ボールを変形・拡張して遊びながら空間づくりをする『(通称)ダンボール公園』―—。何かと話題を集めた『あいちトリエンナーレ2019』のにおいて、子どもたちの人気作品をキュレーターの会田大也さんとアーティストの日比野克彦さんと一緒に企画・制作した遠藤代表は、「人間には、本来巣づくりをする本能があり、自分たちで自由に作り変えながら、みんなで生み出すことができる」と力説する。

最近、あらたにアフリカの生地を用いたオリジナルな椅子を自らつくるプロジェクトも手掛け始めた遠藤代表は、「買わないとそろわないことはなく、もっとカラフルに、もっと思い通りにつくれることを体験してほしい」と意欲的だ。
「相手を好きになって、相手と一緒にデザインを生み出していく」ことを信条とする遠藤代表は、オランダ留学時代の恩師からの《子宮の中で何かを培養していくような建築だ》《エモーションでつくっていくあなたは、そのスタイルのままで良い》との言葉を胸に抱きながら、あらたなデザインや価値を生み出し続けていく。


DATA

名 称:一般社団法人マザー・アーキテクチュア
住 所:福岡市中央区西中洲6-27-5F DIAGONAL RUN FUKUOKA
設 立:2013年5月
代表者:代表理事 遠藤幹子
事 業:空間設計やプロダクトづくり、展覧会や学びの場などの企画・提案
URLhttp://mother-architecture.org/

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